重症患者の治療が困難なギラン・バレー症候群
日本医療研究開発機構(AMED)は4月23日、千葉大学病院が重症のギラン・バレー症候群の患者に対し、ヘモグロビン尿症等の治療薬として市販されているエクリズマブを投与する臨床試験を行い、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究院・神経内科学の桑原聡教授、近畿大学内科学講座・神経内科部門の楠進教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際医学雑誌「The Lancet Neurology」(ランセット・ニューロロジー誌)に掲載された。
画像はリリースより
ギラン・バレー症候群は、自己免疫による末梢神経の病気。典型的には、感冒や下痢などの先行感染後に、末梢神経のアレルギー反応による炎症が生じ、手足のしびれと麻痺を急速にきたす。神経に生じた炎症は、4週以内に自然回復するが、回復を早めるために、免疫グロブリン療法や血漿交換療法が行われる。しかし、重症患者に対して現在の治療は十分とは言えず、強い炎症による大きなダメージが末梢神経に生じ、後遺症が残ったり、死に至る場合もある。新規治療の開発が世界中で試みられているが、さまざまな薬剤を用いた臨床試験でも、実用化に至るような結果は得られていなかった。
治療開始4週で、約6割の患者が自力歩行可能まで回復
今回、同研究グループはギラン・バレー症候群の患者に対して、エクリズマブという薬剤を標準的に行われている免疫グロブリン療法に加えて投与することの効果を検討するための臨床試験(医師主導治験)を、全国13施設で実施した。同剤は、補体と呼ばれるタンパク質の活性化を強力に抑える薬剤で、発作性夜間ヘモグロビン尿症など、補体が主な原因となる病気の治療薬として、既に市販されている。同症候群でも、炎症が生じた神経に本格的なダメージが生じる原因に、補体の活性化が大きく関わっていることが推定されている。
試験の結果、同剤の投与により、治療開始から4週時点で自力歩行可能まで回復した人が61%(プラセボ群では45%)、24週時点で走行可能まで回復した人が72%(プラセボ群では18%)であった。同剤との関連が否定できない重篤な有害事象として、アナフィラキシーと脳膿瘍が認められたが、いずれの患者もその後回復した。死亡した患者、髄膜炎菌感染を起こした患者はいなかった。
ギラン・バレー症候群で、新規治療の可能性が示唆されたのは、1992年に免疫グロブリン療法の有効性がオランダから報告されて以来の進展となる。今回の臨床試験はP2試験で規模も小さく、同剤の有効性と安全性を確定するには至らなかったが、日本から新規治療の可能性を示すことができたのは、今回が初めてで、今後の研究が期待される。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース