通常は「休止中」の白色脂肪細胞に注目
東北大学は4月20日、脂肪細胞におけるエピゲノムを介した寒冷環境への適応機構を解明したと発表した。この研究は、東京学先端科学技術研究センター/東北大学大学院医学系研究科の酒井寿郎教授、群馬大学生体調節研究所の稲垣毅教授、学術振興会特別研究員の阿部陽平氏、東京大学大学院薬学系研究科の藤原庸佑大学院生および同大学院医学系研究科の高橋宙大大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」オンライン版で発表されている。
画像はリリースより
恒温動物は、寒冷環境に適応するしくみを持っているが、この際に重要な役割を持つのが脂肪細胞だ。急激に環境の温度が低下すると交感神経系が活性化し、褐色脂肪細胞で脂肪が燃焼され、熱が産生される。一般によく知られている白色脂肪組織は、エネルギーを脂肪として貯めることが主たる役割であるため熱産生能を有しておらず、熱産生に関与する遺伝子も発現していない。しかし、寒冷環境が長期に持続すると、白色脂肪組織でも、脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子が誘導され、寒冷環境に個体が耐えられるよう適応する。
本来、細胞にはゲノムの後天的な調節機構「エピゲノム」というが備わっており、そのしくみにより細胞の種類ごとに働く遺伝子(活動中)と働かない遺伝子(休止中)が明確に決められている。脂肪を貯める機能を担う白色脂肪細胞では通常、脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は「休止中」で、働くことができない。恒温動物が長期の寒冷刺激を受けると、どのようにして遺伝子に寒冷環境に適応した体質への変化を促すのかは、未だ未解明だった。
「JMJD1A」がリン酸化、遺伝子群を「活動中」に
研究グループは、遺伝子がエピゲノムによって通常は「休止中」となっている白色脂肪組織に着目。慢性の寒冷刺激による脂肪組織のベージュ化過程におけるエピゲノム解析を実施した。その結果、寒冷刺激を受けるとアドレナリン作用によってヒストン脱メチル化酵素「JMJD1A」がリン酸化。寒冷刺激が持続すると、必要な機能を獲得したJMJD1Aがエピゲノム変化を介して「休止中」だった脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子群を「活動中」にし、遺伝子を発現させて、ベージュ化を誘導し、寒冷環境に慢性的に適応するしくみがあることが判明した。
ベージュ脂肪細胞は、熱産生のために糖や脂肪を活発に消費することから、近年、栄養過多に伴う2型糖尿病などの生活習慣病の治療標的として注目されている。今回の研究結果は、JMJD1Aのリン酸化を標的とした脂肪組織のベージュ化機構にもとづく生活習慣病の治療・予防法の開発に応用できるものと期待される、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース