CYFIP2の87番目のアミノ酸が変異
浜松医科大学は4月13日、WAVE調節複合体の構成タンパクのひとつ「CYFIP2」の87番目のアミノ酸変異が、早期発症型のてんかん性脳症を引き起こす原因となることを発見したと発表した。この研究は、同大医化学講座の中島光子准教授・才津浩智教授、横浜市立大学遺伝学講座の松本直通教授、昭和大学小児科学講座の加藤光広准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Annals of Neurology」に掲載されている。
てんかんは最も頻度が高い神経疾患のひとつであり、およそ1,000人に6~8人が罹患しているといわれている。国内では約100万人のてんかん患者数が存在すると予想されている。特に、乳幼児期に発症する早期発症型てんかんは脳神経系の発達に重大な影響を及ぼし、重度の精神運動障害や知的障害を併発する可能性があることから、患者やその家族の生活に大きな影響を与える。
てんかんはさまざまな原因が知られているが、最も頻度の高い原因は遺伝子の異常によるものであるといわれている。早期発症型てんかんにおいては遺伝的要因の関与が強く示唆されている。その遺伝的背景は非常に多彩であり、近年の次世代シークエンス技術の発展によってその責任遺伝子が次第に明らかになりつつある。
変異型を発現させた細胞でアクチンの過剰な集積を確認
今回、研究グループは、早期発症型てんかんの原因遺伝子を探るため、699例の小児てんかん患者から採取した血液白血球からDNAを採取し、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析を用いて疾患原因遺伝子の検索を行った。その結果、4例でCYFIP2遺伝子のde novo変異を同定。4例で見つかった変異は、いずれもCYFIP2タンパクの87番目のアミノ酸が別のアミノ酸に置換される変異だったという。4名の患者はいずれも6か月以内に発症するてんかんとその後の重篤な精神運動発達遅滞を認めている。
画像はリリースより
CYFIP2遺伝子はCYFIP2タンパクをコードする遺伝子であり、CYFIP2タンパクはWAVEタンパクを含む4つのタンパク質と複合体(WAVE調節複合体)を形成する。通常の細胞内において、WAVE調節複合体は不活性化の状態で存在しており、この時、WAVEタンパク質のVCAと呼ばれる領域がCYFIP2タンパクに結合することによって、WAVE調節複合体の活性化が抑制されると考えられている。CYFIP2の87番目のアルギニンというアミノ酸は、WAVEタンパクのVCA領域との結合に非常に重要な役割を果たす部位に存在している。
研究グループの実験では、このアミノ酸の変化によってVCA領域との結合が弱まってしまうことが示されたという。また、野生型と変異型のCYFIP2タンパクを細胞に発現させて免疫染色を行ったところ、野生型に比べて変異型を発現させた細胞においては、アクチンの過剰な集積を確認。これらの結果から、CYFIP2変異体をもつ患者ではWAVE調節複合体の過剰な活性化が引き起こされており、アクチン動態の制御に異常をきたしている可能性があるという。
今回、WAVE調節複合体の構成タンパクの変異がてんかんと関与していることが世界で初めて明らかなった。この成果について、研究グループは「小児難治性てんかんの病態解明に貢献し、効果的な治療法の開発に寄与することが期待される」と述べている。
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・浜松医科大学 研究成果プレスリリース