アデノ随伴ウイルスを用いた精巣への新規遺伝子導入法
京都大学は4月10日、男性不妊症「セルトリ細胞遺残症候群」について、アデノ随伴ウイルスを用いた精巣への新規遺伝子導入法を開発し、不妊症モデルマウスの精子形成を回復させることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の篠原隆司教授、理化学研究所バイオリソースセンターの小倉淳郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は「Stem Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
日本において不妊症は増加しており、現在は6組に1組が不妊だと言われている。不妊症の原因の半分は男性側にあり、多くの場合、精子形成異常が見られる。精子形成には、精子形成細胞とセルトリ細胞の密接な相互作用が必要で、いずれかの細胞に欠陥があった場合でも精子形成が途中で停止し、不妊症となる。これまでは減数分裂が終了した成熟細胞の段階で精子形成が停止した場合については治療が可能だったが、それ以前の分化段階の細胞に異常があった場合には治療法がなかった。今回の研究対象となったセルトリ細胞遺残症候群(Sertoli cell only syndrome)は男性不妊の10%程度と言われている疾患で、ほとんど精子形成細胞が見当たらない治療困難なものである。
精子形成が回復したマウスの精子から正常な子孫も
研究グループは、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子治療により、男性不妊の治療に成功したという。セルトリ細胞遺残症候群のモデルマウス(Sl/Sldマウス)の精巣にAAVを感染させると、感染後2か月ほどで不妊マウスの精巣に精子形成が回復。生じた精子を用いて顕微受精を行ったところ、正常な子孫を得ることが出来たという。
また、生まれてきた子孫のDNAを回収して遺伝子がゲノム内に挿入されているかを調べたところ、いずれの子孫にも外来ウイルスDNAは存在せず、生殖細胞ゲノムに挿入されないことが明らかになった。AAV感染後の精巣において炎症細胞が誘導されていないことも確認。これらの結果から、同手法の安全性も確認されたとしている。
今回の手法は、同該ウイルスが感染した細胞のゲノムに遺伝子を挿入せず、炎症反応も起こさない点で先行研究よりも安全性に優れているという。3か月以上にわたってセルトリ細胞での遺伝子発現が継続するため、ヒトのように精子形成期間が長い場合でも発現の持続が期待できるとしている。今後は、ヒト男性不妊症の原因遺伝子の特定と、より高い安全性の確保によって、同手法のヒト不妊治療への応用が期待される、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果