「リカバリー」こそ統合失調症の真のゴール
大塚製薬株式会社は4月5日にプレスセミナーを開催。統合失調患者の社会復帰に向けた新たな治療選択肢をテーマに、藤田保健衛生大学医学部 精神神経科学講座教授の岩田仲生氏が講演した。
藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学講座 教授
岩田仲生氏
10代後半~20代での発症が多い統合失調症。詳細な病態は未だ明らかになっていないものの、妄想や幻覚、思考障害などの陽性症状は、治療によって抑制が可能だ。かつては症状を抑えることが治療目標とされてきた統合失調症治療だが、近年では、患者それぞれの主観的な回復満足度を重視した、「リカバリー」へと治療目標が変わってきた。「再発を防止し寛解を維持することで、患者さんが日常、つまり“ふつうの人生”へと戻っていくことこそ、統合失調症治療の真のゴールだ」と岩田氏は話す。
しかし、アメリカで行われた統合失調症患者の追跡調査によると、5年間のリカバリー到達率はわずか13.7%。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が行った日本の調査では、退院後1年以内に35%の患者が再入院していることが明らかになっている。こうした再発のリスクを高めるのは、薬物療法の中断だ。薬の飲み忘れや、副作用を嫌って自己判断で服薬をやめてしまう患者も多いという。「薬物療法を中止した場合、初回の再発リスクは約5倍という報告もある。ほかのリスク因子が1~1.2倍程度であるのに比べ、薬をやめることのリスクは突出して高い」(岩田氏)
患者の希望に合わせて、処方をカスタマイズして
再発は、リカバリーの達成を妨げるだけに留まらない。入院回数が増えることで、医療費も膨らみ、重症化すると治療の効果が出にくくなる。自傷や他害のリスクも高くなるうえ、社会的機能が低下すると、家族や介護者の負担もより大きくなる。生物学的な観点からも、再発を繰り返すと脳が萎縮することが、患者の脳の画像診断所見を経時的に追った研究などから確かめられており、脳を守るという意味でも再発を防ぐことは重要だ。
再発を防ぐために欠かせない薬物療法の継続だが、服薬アドヒアランスの測定は容易ではない。治療薬の蓋を開けたかどうかをセンサーで感知してアドヒアランスを測定した研究では、退院後の1か月で服薬アドヒアランスが急速に低下、さらにアメリカで処方データを解析した調査でも、患者の6割が薬物療法を中断しているという実態が明らかになっている。服薬アドヒアランス対策としては、「医師が無理矢理薬を飲ませるのではなく、患者の希望に合わせて処方をカスタマイズすることが必要」と岩田氏。患者の家族や友人、居住地域の協力を得ることも大切だ。それでもアドヒアランスが悪ければ、半減期の長い薬剤や持続性注射剤(Long Active Injection:LAI)、貼付剤への切り替えも考慮する必要があるという。
LAIは、服薬アドヒアランスを低下させない治療法として、近年開発された。2~4週に1回、通院時に投与するため、毎日の服薬は不要となる。筋肉内に投与することで、内服薬よりも血中濃度が一定に保たれ、症状も安定するという。岩田氏は、「統合失調症治療薬には、“飲まない”という選択肢が存在することを知らない医師もいる。内服薬以外の治療選択肢にも目を向けてほしい」と締めくくった。
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