運動機能回復のカギを握るAMPA受容体
横浜市立大学は4月6日、脳卒中後のリハビリテーション効果を大きく促進する新薬の候補化合物を特定、富士フイルムグループの富山化学工業株式会社が承認取得に向けて脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者を対象とした治験を実施すると発表した。この研究は、同大学学術院医学群生理学の高橋琢哉教授らの研究グループと富山化学が、産業技術総合研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により行ったもの。研究成果は、科学雑誌「Science」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中後の回復期における運動機能の回復を目的とした治療は、地道なトレーニングによるリハビリテーションが主体となっているが、その効果は限定的であり、より効果的な治療法が望まれている。
この運動機能回復のメカニズムには、リハビリテーションなどの外部からの刺激に応答した脳の変化(脳の可塑性)が関与していることが知られている。脳の可塑性がおこるとき、神経細胞の情報伝達を担うシナプスでは、神経伝達物質に対する応答が強められたり、弱められたりするといった変化が見られる。
生体における記憶学習といった可塑的変化に伴ってシナプス応答の増強が見られるとき、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつであるAMPA受容体がシナプスの膜上で増加することが、同教授らの研究から明らかにされており、AMPA受容体のシナプス移行が脳の可塑性のメカニズムのひとつであることが広く認められてきた。
edonerpic maleate投与で、脳の可塑性が向上
研究グループは、ウイルスを用いた生体内遺伝子導入法、電気生理学的手法を用いて富山化学が創製した化合物「edonerpic maleate」が外部からの刺激依存的にAMPA受容体のシナプス移行を促進すること(脳の可塑性を向上させること)をマウス実験で示した。また、この薬効における同化合物の標的がCRMP2というタンパク質であることを明らかにした。
さらに、この脳の可塑性向上を損傷後の脳でも誘導できれば、リハビリテーション治療の効果を促進できると考え、げっ歯類、霊長類の脳損傷モデルを用いた検証を実施した。まず、マウスの脳損傷モデルで前肢の運動機能を評価する方法を構築し、脳損傷後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、運動機能が回復することを明らかにした。次に、ヒトのように指でものをつまむ動作を評価できるカニクイザルを用いて、脳出血後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、リハビリテーション治療でも回復が困難とされている指の精密な運動も回復することが確認された。
今後富山化学は、脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者を対象とした治験(フェーズ2)を行い、従来の症状評価指標に加え客観的評価指標を用いることで、edonerpic maleateの臨床的有効性および安全性を確認するとしている。
▼関連リンク
・横浜市立大学 先端医科学研究センター ニュース