HIGMやCVIDと症状が類似、診断難しく
広島大学は4月4日、稀な免疫不全症である「活性化PI3K-delta症候群(APDS)」の迅速診断法を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯薬保健学研究科小児科学の小林正夫教授、岡田賢講師、浅野孝基大学院生らと、東京医科歯科大学、防衛医科大学、岡山大学、長崎大学、金沢大学、かずさDNA研究所の研究グループによるもの。研究成果「Frontiers in immunology」で公開されている。
画像はリリースより
APDSは、先天的な遺伝子異常により、細胞の分化、増殖などに重要な役割を果たすPI3キナーゼ(PI3K)の機能が過剰になることで発症。患者は、気管支炎や肺炎、副鼻腔炎などの感染症を繰り返す。体内に侵入した病原体を排除するリンパ球の減少や、細菌やウイルスから体を守る抗体の産生障害(IgG低下、IgM増加)があり、細菌やウイルスに容易に感染すると考えられている。また、高IgM症候群(HIGM)、分類不能型免疫不全症(CVID)といった別の先天的な免疫の病気と症状が類似していることから、本来APDSと診断されるべき患者がHIGMやCVIDと診断されている場合や、APDSと診断されずに原因不明とされている場合が危惧されており、その診断は容易ではない。
PI3Kは、下流に存在するセリン/スレオニンキナーゼ「AKT」のリン酸化状態をコントロールすることで、細胞の分化、増殖を制御している。APDS患者では、PI3Kが過剰に活性化していることが知られていたことから、研究グループはAKTのリン酸化状態に着目して研究を実施したという。
APDS患者のBリンパ球でAKTのリン酸化が著明に亢進
研究グループは、フローサイトメトリーを用いて、血液中のリンパ球におけるAKTのリン酸化を解析。その結果、APDS患者のBリンパ球では、AKTのリン酸化が著明に亢進していることがわかったという。免疫能が正常な健常者や、APDSと鑑別が必要なHIGM、CVID患者では、Bリンパ球におけるAKTのリン酸化の変化は認められず、この現象はAPDS患者でのみ認める特徴的な所見と考えられるという。また、APDS患者で認めたBリンパ球におけるAKTのリン酸化の亢進は、PI3K阻害薬で処理すると正常化することも明らかになったとしている。
次に、このBリンパ球におけるAKTのリン酸化の程度を、MFI(Mean FluorescenceIntensity)という指標を用いて数値化を試みた。具体的には、PI3K阻害薬の処理の前後でMFI値を測定し、両者の差(ΔMFI)を算出することで、AKTのリン酸化の亢進の程度を数値化。その結果、APDS患者群では有意にAKTのリン酸化が亢進していることが確かめられたという。
これらの結果から、血液中のBリンパ球に着目してAKTのリン酸化状態をフローサイトメトリーで数値化し比較検討することで、APDS患者の迅速診断が可能であることが明らかになった。研究グループは「本法を用いることで、過去に未診断であったAPDS患者を迅速に診断し、適切な診断に基づく治療方針決定に貢献できると考えている」と述べている。
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・広島大学 研究成果