■巨額の廃棄実態も明らかに
注射用抗癌剤について、一つのバイアルを2人以上の患者に分割使用する薬剤バイアル最適化(DVO)の検討が広がってきている。分割使用した試算結果からは、全国の医療機関における抗癌剤の廃棄実態が相次ぎ判明し、数千万円単位の薬剤費削減効果が得られると結論づけられている。まだ現時点で安全性の検証が大きな課題として残るが、無菌状態を保つ閉鎖式薬物輸送システム(CSTD)を用いた検証も着実に進んでいる。厚生労働省は、安全基準に関するガイドラインを検討中で、国が一定の基準を示すことにより、抗癌剤の分割使用は一層加速する可能性が高まってきた。
横浜南共済病院(横浜市金沢区)では、抗癌剤の廃棄金額、CSTDのコスト、無菌製剤処理料を算出。安定性が3時間以内の薬剤を除外し、分割使用できる期間を7日間とした上で、CSTDを用いて分割使用した場合としない場合を比較した。
昨年7月から約2カ月間使用した抗癌剤を分割使用した結果、廃棄量は5.18%から0.69%、廃棄金額も1370万円から467万円に大幅に減少した。ただ、CSTDの使用による無菌製剤処理料の収入が45万円から178万円に増えた反面、CSTDコストが17万円から633万円に大幅に上昇した。
抗癌剤の廃棄量が多かったのは、「ジェブタナ」「テモダール」「フィルデシン」「ピノルビン10mg」「エルプラット50mg」「ハイカムチン」「ベルケイド」となったが、これらを分割使用した結果、廃棄量は約80%削減された。特に「テモダール」「エルプラット」「ハイカムチン」「ベルケイド」の廃棄量は2%以下に大幅に削減されたことが分かった。
廃棄金額を見ると、「ベルケイド」「アバスチン400mg」の2剤で削減額は全体の5割以上に達し、廃棄金額は全体で約900万円削減された。CSTDコストと無菌製剤処理料を全て加味すると、抗癌剤の廃棄金額は約400万円の削減となった。
同院薬剤科の試算では、CSTDを使った分割使用により、抗癌剤の廃棄金額を年間約2400万円削減できるとしている。ただ、無菌製剤処理料を大きく上回るCSTDコストが発生するため、無菌製剤処理料の見直しを提言している。
富山市民病院(富山市)では、昨年7月から9月までに使用した抗癌剤の薬剤費、分割使用した仮定の薬剤費を比較検討し、薬剤費削減効果を試算している。分割使用は当日使用のみが対象。
その結果、薬剤費が3カ月で約353万円、年間で約1400万円以上削減できるとされた。最も削減額が大きい「アブラキサン」「アバスチン」など上位4剤は先発品が占め、削減できる薬剤費のうち先発品が全体の8割を占めた。同院薬剤科は「先発品に限定して分割使用を行うだけでも効果はある」としている。
勤医協中央病院(札幌市)では、15年4月から昨年3月まで実施された入院・外来化学療法のうち、無菌調製した7152件の廃棄量、廃棄額を検討すると共に、DVOを実施した場合の試算を行っている。対象は当日に無菌調製した全品目。その結果、当日にDVOを実施した場合、2年間で約2800万円の薬剤費が削減できるとされた。また、溶剤と溶解後6時間の室温、散光条件下で安定性が認められた凍結乾燥製剤に限っても、約1800万円の削減効果が得られると試算された。
2年間で無菌調製した抗癌剤の53.8%で残液が廃棄され、その廃棄額は全体で約8800万円に上った。抗癌剤ごとの廃棄額を見ると、「ベルケイド」「ビダーザ」「アバスチン」「アブラキサン」「アリムタ」「ジェブタナ」「ハラヴェン」など上位10品目だけで全体の86.8%を占め、これら10品目に限った廃棄発生は64.3%となった。そのうち、「ベルケイド」「ジェブタナ」「ハラヴェン」の3品目については100%廃棄が発生していた。
同院薬剤部は、廃棄額上位10品目のうち5品目は1規格しかないことを廃棄率が高い要因に指摘。その上で、一部の抗癌剤に限ってもDVOの実施は薬剤費削減に効果があると結論づけている。