心臓の間質にある細胞で、最も多いとされる線維芽細胞
東京女子医科大学は3月15日、線維芽細胞に血管新生抑制作用があることを見出し、その責任因子としてLYPD1を同定するとともに、LYPD1タンパク自体に血管新生阻害作用があることを見出したと発表した。この研究は、同大先端生命医科学研究所の増田(青木)信奈子助教および同研究所・循環器内科の松浦勝久准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Biomaterials」オンライン版で発表されている。
画像はリリースより
重症心不全に対する新たな医療として、ヒト多能性幹細胞由来心筋組織を用いた再生医療研究が世界的に進められており、3次元組織の移植には、より高い機能再生効果が期待されている。生体の心臓には、実質細胞としての心筋細胞だけでなく、間質には線維芽細胞および血管の細胞が存在する。そのうち、最も多く存在するといわれているのが線維芽細胞だ。
細胞シート工学を用いて心筋組織を構築する上でも線維芽細胞が不可欠であり、さらに3次元組織の構築には、組織を栄養する血管網も不可欠である。線維芽細胞は、さまざまな組織・臓器に存在しており、その由来による機能的特性の差異を明らかにすることは、より生体に近い組織構築を可能にするもので、心臓の特性をより深く理解することになる。
そこで今回、研究グループは、ヒト心臓線維芽細胞とヒト皮膚線維芽細胞の血管新生能を、ヒト血管内皮細胞との共培養によって比較検討。得られた機能的差異の分子機序を解析することで、心臓線維芽細胞の特性を明らかにすることを目的に研究を開始した。
LYPD1タンパク自体に血管新生抑制作用
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞やヒトiPS細胞由来血管内皮細胞、ヒト心臓微小血管内皮細胞およびヒト大動脈血管内皮細胞をヒト皮膚線維芽細胞と共培養すると、いずれも血管内皮細胞の密なネットワークが形成されるのに対し、これらの血管内皮細胞をヒト心房および心室由来心臓線維芽細胞と共培養すると、血管内皮細胞のネットワーク形成が抑制される様子が観察された。これは、心臓線維芽細胞が血管新生に対し抑制的に働いていることを示唆するという。
その後、ヒト心臓線維芽細胞の血管新生抑制作用の責任因子「LYPD1」の同定に成功。また、LYPD1タンパク量を添加すると、心臓線維芽細胞がなくても血管内皮細胞のチューブ状構造を抑制したことから、LYPD1タンパク自体に血管新生抑制作用があると考えられる。さらに、ヒトiPS細胞より心筋細胞への分化誘導過程で産生される線維芽細胞もLYPD1を高発現し、血管新生抑制作用を示すことも明らかになったという。
これらの研究成果について、研究グループは、「再生医療用および疾患・創薬研究用心筋組織構築に貢献するのみならず、LYPD1発現・機能抑制による虚血性心疾患に対する血管新生治療につながる可能性がある」と述べている。
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