新規抗がん剤開発プラットフォームを用いて
東京医科歯科大学は3月9日、マウスモデルを基盤とした新規抗がん剤開発プラットフォームを利用して、化合物スクリーニングによりスキルス胃がん特異的に作用する薬剤を新たに発見したことを発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、秋山好光講師の研究グループが、同生体材料工学研究所医療機能分子開発室の影近弘之教授と共同で行ったもの。研究成果は「British Journal of Cancer」に掲載されている。
国内において、胃がんは罹患数で第1位(2013年)、死亡数で第3位(2016年)であり、なかでもスキルス胃がんは浸潤が強く、リンパ節転移が多く、予後が悪いがんとして知られている。また、スキルス胃がん特異的に作用する薬剤はまだ開発されていない。
研究グループは、ヒトスキルス胃がんで高頻度に異常が認められる細胞接着分子「E-cadherin」とがん抑制因子「p53」に注目し、これらの遺伝子が胃で特異的にノックアウトされる遺伝子改変マウスモデルを作製。このマウスモデルは、ヒトスキルス胃がんを形態学的にも分子生物学的にも忠実に再現することを世界で初めて報告していた。今回の研究では、このスキルス胃がんマウスモデルを基盤に、スキルス胃がん特異的に作用する薬剤を効率的に開発することができるようなプラットフォームを確立することに成功したという。
合成エストロゲン「mestranol」に注目
スキルス胃がんマウスモデルの胃がんより樹立された細胞株は、スフェア形成能・造腫瘍能が高く、従来の細胞障害性抗がん剤に対して耐性があり、がん幹細胞様の形質を呈していることが判明。そこで、このマウススキルス胃がん細胞株に対して、1,535種類の機能既知化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、がん細胞特異的に作用する27種類の候補化合物を同定し、そのひとつである合成エストロゲン「mestranol」に注目。mestranolを含む女性ホルモンがマウススキルス胃がん細胞株特異的にエストロゲン受容体βを介してDNA傷害性アポトーシスを誘導していることが示されたという。
画像はリリースより
同様に、ヒト胃がん細胞株の中でも、E-cadherin機能異常(変異または発現低下)細胞株は、女性ホルモンに対する感受性が高いことが明らかになった。また、The Cancer Genome Atlas Networkが提供するヒト胃がん公開データにおいて、非スキルス型の胃がん患者では予後に男女差はないが、スキルス胃がん患者では、男性よりも女性の方が有意に予後が良いこともわかったとしている。
今回の研究成果について、研究グループは、「このプラットフォームを利用してスキルス胃がん特異的に作用する薬剤の開発を進めていくことができるだけでなく、このコンセプトを他のがんにも応用することで、より臨床的に有効性が高い抗がん剤を効率的に開発することができるようになると考えられる」と述べている。
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