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【連載】第2部:全てのがん患者に優れた医療を!-ワールドキャンサーデー市民公開講座

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2018年03月09日 PM02:00
つながる力、つなげる想い
主催:
後援:
日時:2018年2月4日(日)13:20~17:15
場所:浜離宮朝日ホール 小ホール

第2部:全てのがん患者に優れた医療を!

座長:門田守人(日本医学会会長/堺市立病院機構理事長)

第2部のテーマは、“全てのがん患者に優れた医療を!”。このテーマからは、“高齢化が進行し、がん患者の増加が見込まれるなかで、高額な医療費を国民皆保険制度でカバーできるのか?”、“結局、何かを切り捨てざるを得ないのでは?”といった流れの議論を想定する方も多いのではないだろうか。

しかし今回登壇するパネリスト達は、別の角度からアプローチする。患者、医師、企業、そして行政府。さまざまな立場から“全てのがん患者に優れた医療を!”を実現するための取り組みや意見が紹介された。

第1部はこちら⇒【連載】第1部:がんは予防できる

【7】全てのがん患者に優れた医療を!:We can improve access to cancer care.

門田守人(日本医学会会長/堺市立病院機構理事長)

「国民皆保険制度を持つわが国は、医療へのアクセスという観点では概ね“全てのがん患者に”医療が提供されている」と評価する座長の門田氏。

しかしその一方で、「“がん患者に優れた医療を”と言っても、その“優れた医療”は、治療という面では正しいかもしれないが、患者さんの私生活(に与える影響)を考えると、必ずしも“優れた”と表現できない治療も多いのが現状ではないか」と発言し、これががん患者の就労問題―がんのために仕事を辞めざるを得ない、あるいは、就職に難渋する―を引き起こす可能性を指摘した。

人は日々の暮らしの中で働くこと以外にも、さまざまなことに生きがいや自分らしさを見出す。これらが、がん自体のみならず、がん治療によっても変更あるいは断念に追い込まれるケースがあり、これを改善するために何ができるのか。

門田氏はまた、「現状の取り組みの多くには、“サポート”とか“支援”といった名称が与えられています。以前は、それすらなかったのですから、支援ができるようになったことは、すばらしいことだと思います。しかしこれに満足せず、次の段階は“支援”ではなくて、全ての国民の“当たり前の権利”とみなされる国になっていく。そういう気持ちを皆さんと共有し、それに対応する政策が実行されるところまで実現してほしい」と今後への期待を語った。

【8】わたしはがんになっても働くことをやめない:I can return to work.

松本陽子(全国がん患者団体連合会副理事長/愛媛がんサポートおれんじの会理事長)

「実は私は、がんになった後に職場を去った経験者です」-担当するテーマに反する経歴から話し始めた松本氏。20年近く前に子宮頸がんの診断、治療の後、一度は職場復帰したが、仕事を辞めている。理由は2つ、“職場でのコミュニケーションが上手くいかなかったこと”と“価値観の変化”。職場でのコミュニケーションについては、「治療による半年の休職後に復帰した際、『すみませんでした。長いお休みをいただきまして』と職場で話したら、『もういいよ』と言われました。それが、『もうそんなに頑張らなくてもいいから、ゆっくりいこうね』といういたわりの言葉だったのか、それとも『もう働かなくていいよ』という意味だったのか-そこで私はコミュニケーションをとる勇気がなかったんです。その次を聞く勇気が持てませんでした」という。価値観については、「そんなに長く生きられないのであれば、お金儲けをしている場合ではないのではないか」、「同じような経験をする人の力になりたいな」という変化があったという。

現在行っているがん患者の就労支援活動では、職場での面接の際には“必要に応じて”がんであることを伝えれば良い、という立場をとる。伝える必要がある場合は「がんになってこれができません、というネガティブな情報だけではなくて、がんになりました、でも、これは私の強みだと思っています。これはいままでどおりできるし、あるいは病気になったからこそ、こういうことができるようになったという、“強み”も数えてみて」とがん患者にアドバイスする松本氏だが、担当するテーマ“わたしは、がんになっても働くことをやめない”については次のように語る。「今回のテーマは英語では I can return to work、“return”という言葉が使われています。これについて私は、単に仕事とか職場ではなく、“自分らしい(役割をはたせる)居場所に戻る”ととらえたいと思っています。もちろん職場や仕事が自分らしい居場所であれば、そこに戻ればいいでしょうし、そうじゃないところに自分らしい居場所を見つけた方は、そこに戻れるような、そういう社会の寛容さが必要ではないかと思っています」と述べた。

【9】同僚ががんになってもまた働けるよう支えることができる:We can support others to return to work.

望月 篤(株式会社大和証券グループ本社 常務執行役 CHO[最高健康責任者]人事担当)

大和証券グループ本社から参加した望月氏は、「当社は証券会社で、やはり人がすべてです。そのひとりひとりの社員が生き生きと働ける環境づくりをどうするか、というのが長年の課題でした。そうした中で、健康問題は切っても切れない位置づけとなり、社員の健康問題に10年来取り組んできました」という。忙しさを理由に受診や定期検診をおこたり、重症化や休職を招くケースを減らすために、社員のプライバシーという課題は認識しつつも、一歩踏み込み、当該社員に上司から“診察や検査を受けなさい”と言うことから会社としての取り組みは始まった。

氏は、「長時間労働で画一的な働き方をする社員だけが企業にとって必要なわけではなく、いろんな働き方をする社員をどう応援していくかが、われわれにとっても大きな課題になってきています」という企業側の認識を示したが、そのなかの“いろんな働き方をする社員”には“がんを抱えながらも働こうとする社員”が含まれている。実際2017年10月からは“ガンばるサポート がん就労支援プラン”が開始され、短時間勤務や時間外労働、残業の免除・制限、柔軟な勤務制度の他に、がん治療の副作用による体調不良時に利用できる治療サポート時間、治療費や高度先進医療費のサポート、自分らしく仕事ができるよう支援するためのアピアランスサポート制度も設け、ウィッグや人工乳房などの費用補助を実施している。

「こうした支援は、社員個人の健康増進や活躍の促進のみならず、企業にとっても生産性向上あるいは人材の確保、健康経営の実現、社会的責任を果たすことにつながると考えています」と胸を張る。なお大和証券グループ本社は、2015年から4年連続で、経済産業省と東京証券取引所により「健康経営銘柄」に選ばれただけでなく、2017年にはがん対策推進企業アクションにおける取り組みが評価され、厚生労働大臣賞を受賞している。

【10】健康的な職場をつくろう:We can create healthy workplaces.

佐々木昌弘(厚生労働省 がん・疾病対策課長)

「いまや外来でがんを治療する以上は、働く場所も含めての総力戦です。医療の現場だけの総力戦ではありません」という佐々木氏は、行政の立場から発言した。

2017年10月にまとめられた第3期がん対策推進基本計画には、3本の柱-(1)がん予防、(2)がん医療の充実、(3)がんとの共生-がある。(1)には“科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実~がんを知り、がんを予防する~”、(2)には“患者本位のがん医療の実現~適切な医療を受けられる体制を充実させる~”、(3)には“尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築〜がんになっても自分らしく生きることのできる地域共生社会を実現する~”という全体目標が各々定められており、これらは、今回の市民公開講座の第1部から第3部のテーマと重なる。

現在の厚生労働行政は“その人らしさ”や“多様性”を重視しているが、それを政策として形にする際、“ある人”のその人らしさが“他人”のその人らしさと矛盾する場合がある、本人の健康には望ましくない“その人らしさ”をどのように扱うのか、といった難しさを抱えているという。また、“仕事と治療の両立”に対する支援だけでなく、“一度仕事を辞めて(休んで)治療を受け、その後、もう一度就職(復職)する”という人への支援も政策的課題として考慮しているなどの説明があった。

そして、現在開会中の第196回国会(会期:平成30年1月22日〜6月20日)の重要テーマである“働き方改革”についても触れ、単なる残業時間の問題としてとらえるのではなく、がん患者も健康な人も働きやすい職場を作るために、個人、職場、社会がそれぞれの立場で何ができるのかを考える機会としてもらいたいと述べた。

【11】わたしは助けを求めることをためらわない:I can ask for support.

宇津木久仁子(がん研有明病院婦人科副部長)

「がん治療中は、やつれたり、髪の毛や眉毛が抜けたりして外見が変化します。外見の変化によって消極的になり、人と会いたくなくなったり、もちろん仕事もしたくなくなったりするかもしれません」―婦人科がんの専門医として数多くの患者に接してきた宇津木氏は今回、治療中の外見の変化に対するケアの重要性を訴えると同時に、そのケアの実践において“助けをもとめることをためらわないでほしい”という趣旨で、がん研有明病院の取り組みを紹介した。

がん治療中の脱毛のうち、髪の毛については、帽子あるいはカツラの使用が一般的だが、入院中の化粧を禁止する施設は多いため、眉毛・まつ毛の脱毛に対するケアを行っている患者は少ない可能性がある。宇津木氏は、“周術期は容態の急変の可能性もあるので化粧は控えるべき”と前置きしつつも、「入院中に“お化粧はだめよ”と言っている施設があれば、診療に差しさわりのないようなお化粧はさせてあげてほしい」、「いつもお勤めされていた方が入院して、同僚がお見舞いに来たとき、お化粧していなければ人と会えません」と訴える。がん研有明病院では、周術期を除き、入院中の化粧は許されており、「プロのお化粧の先生が月2回、またボランティアの人が週2回、眉をペンシルで描いてあげたり、眉を隠してあげたりというケアなどをしています。また2年前からはネイルケアもしています」という。

このようながん研有明病院の取り組みで注目されるのは、男性だけを対象とした“メンズデー”もあることだ。「外見のケアというのは、女性だけではないんですね。男性もそうなんです。むしろ男性のほうが社会に出ているので、そういうケアが必要かもしれません」、「眉を少し描いてさしあげたり、アイラインを少々、お化粧はバッチリするわけではありませんが、とても元気になります。ですから、外見のケアをすることは当たり前だし、そういうことがあっていいんだよというのは、ぜひ男性の人も思ってほしい」と語る。

一時的であったとしても“自分らしさが失われる”ようながん治療中の外見の変化は、男女関係なく“助けを求めることをためらわないでほしい”という典型事例である。

【12】わたしは、人を愛し、人から愛される:I can love, and be loved.

河村裕美(認定NPO法人オレンジティ理事長)

約20年前、入籍の1週間後に子宮頸がんを宣告され、子宮と卵巣の摘出とその周囲のリンパ節郭清をうけた河村氏。術後に参加した患者会で、家族や他人(特に男性)には相談しづらい悩みについて、女性患者どうしで話し合うことの意義を実感したという。現在は、地元の静岡県で女性特有のがん(子宮・卵巣・乳房)のセルフヘルプグループの理事長を務めている。

「子宮をとってしまったとき、子どもが産めなくなったんです。それでどうしたかというと、10年前に里親登録をしました」。昨年(2017年)、河村氏は特別養子縁組を行い、母親となった。

「実際、私は自分の肉体では子どもを産むことができません。ただ、娘の子育てをしたり、皆様にこうやって自分のがんの話をしたり、いろいろな活動をすることによって、私自身が命をつくり出せなくても、未来に命をつなぐことができる礎にはなれるのではないか。これも一つの愛なのではないかと思って頑張っています」と語り、前向きに「折り合いをつけた」という。「いろんな方たちの話を聞いて、自分の人生に折り合いをつけるというんですかね、妥協するというんですかね、“これはだめなんだ。だけれども、他はいけるかもしれない”という折り合いをつけることがすごく大切だったなと思います。子どもが産めなくなったことはあったのですが、里親になる。これは折り合いをつけたんですね。そういった一つひとつに折り合いをつけていくこと。できなくなったことをできるようにしようと思うのではなく、“できなくてもしようがない。だけども、他にできることがあるのではないか”と考えて折り合いをつける。オレンジティでは、必ず“折り合いをつける”という言葉で話すのですが、そこが“自分らしさ”の一番大きな原点だなと思っています」―この“折り合いをつける”は、氏にとって、がんによって大きな制約を受ける“自分らしさ”を失わない、あるいは取り戻すためのキーワードである。

(リノ・メディカル)

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