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【連載】第1部:がんは予防できる-ワールドキャンサーデー市民公開講座

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2018年03月09日 PM02:00

UICC)は、ジュネーブに本部を置く民間の対がん組織連合である。1933年に設立され、現在は世界の155ヵ国から800団体が参加している。UICCは2月4日を“”と定め、毎年世界が一体となってがんのためにできることを考え、約束を取り交わし、行動を起こす機会を設けている。

2018年2月4日(日)、(委員長:野田哲生/がん研究会がん研究所所長)は、東京都中央区の浜離宮朝日ホールにて、「ワールドキャンサーデー つながる力、つなげる想い」を開催した。今回は「WE CAN. I CAN.-みんなでできる ひとりでもできる」をメインテーマとし、それに付随する19のメッセージについて、医師・研究者、患者、行政、立法など様々な立場のパネリストが個々の想い、考えを述べ、話し合った。本稿ではその様子を3回連載でレポートする。

ワールドキャンサーデー つながる力、つなげる想い
主催:UICC日本委員会
後援:
日時:2018年2月4日(日)13:20~17:15
場所:浜離宮朝日ホール 小ホール

※Unio Internationalis Contra Cancrum、2010年より英名はUnion for International Cancer Control
参考:http://www.jfcr.or.jp/UICC/uicc_japan/cancer-education/program.html

第1部:がんは予防できる

座長:中釜 斉(国立がん研究センター理事長・総長)

がんという困難な病に立ち向かうための取り組みは多岐にわたる。ひとりの人間がその全てをカバーすることはできないため、個々の人間ができることをつなぎ合わせ、幾つかの大きな流れを作ることになる。

“がん予防に積極的に取り組み、実際に成果をあげる社会”を作るために、パネリストたちは日々、何を考え、何を実践しているのか-“がんは予防できる”をテーマに、第1部が幕を開けた。

【1】がんは予防できる:We can prevent cancer.

中釜 斉(国立がん研究センター理事長・総長)

細胞のDNAに少しずつ時間をかけて傷が蓄積し、20~30年後に発症、あるいは診断に至るがん。DNAを傷つける主な要因は、喫煙、感染症(肝炎や子宮頸がんのウイルス、ヘリコバクター・ピロリなど)、肥満、運動不足などであるとされるが、はたして“がんは予防できる”のか?―「原因がわかっているものについては、それを避ける、摂取しないのが基本。次に重要なのが、定期検診による早期発見です」と座長の中釜氏は強く訴える。

高齢化が進むわが国では、毎年100万人が新規にがんと診断され、今後も更なる患者の増加が見込まれる。そのため、氏は、“がんの予防や早期発見を国民ひとりひとりが自らのことと認識し、実際の行動に移す”、これを社会全体の動きとしなければならないことも併せて指摘した。

【2】健康的な学びの場をつくろう:We can create healthy schools.

林 和彦(東京女子医科大学がんセンター長)

日頃からがんの薬物療法や緩和ケアに取り組む林氏。がん患者やその家族に対する診療時の説明だけでなく、市民公開講座や各地の小学校に出かけての啓発活動も積極的に行っている。

「私自身、中学生のときに父親を胃がんで亡くしました。自分は何も知らなくて、何もしてあげられなかったのがすごく心残りだったんです。だから、知ることはすごく重要で、できれば知りたいと思った。40年も前ですが、父親も治療や病気のことを知らずに亡くなりました。それって、いま思うととても切ない亡くなり方だったのではないかと思う」という林氏は、国民皆保険制度の確立により、世界一の低コストで高度な医療を病院で受けることが可能となったことを評価しつつも、「それまで家の中で家族が対峙してきた病の成し得るところが、だんだん遠ざけられてしまって、何となく非日常的なもの、できれば考えたくないこと」になったと感じており、「もしかしたら、この患者さんもご家族も、人は病にかからない・死なないと思っていらっしゃるのではないか?」とさえ感じることがあるという。

啓発活動の際、早期発見・早期治療の有効性や、がんの診断後も社会や家庭で活躍できることを話したときの子どもたちの安心したような、ホッとしたような表情が強く印象に残っている様子の林氏。がんという“誰にでも起こり得て、死に至ることもある病”に関する知識を与えるだけでなく、がんを通じて、子どもの頃から命や心についても考える機会を与えることが、将来社会の中核を担う時、社会としてがんに立ち向かう力の充実につながると訴えた。

【3】優れたがん医療人材を育てよう:We can build a quality cancer workforce.

今村定臣(日本医師会 常任理事)

日本医師会常任理事の今村氏によれば、日本医師会は現在、かかりつけ医によるがん検診受診勧奨の重要性を啓発中であるという。がん検診受診率の向上を目指して「かかりつけ医のためのがん検診ハンドブック」を作成し、日本医師会の全会員に配布するなどの活動を行い、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん―いわゆる五大がんの検診率は30~50%という状況だが、徐々に上昇しているという。

日本医師会の定義する“かかりつけ医”とは、「何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには、専門医、そして専門医療機関を紹介できて、身近で頼りになる地域医療・保健・福祉を担う総合的な能力を有する医師」である。今後の少子高齢化社会を見据え、地域住民から信頼されるかかりつけ医としての能力の維持・向上を目的とした“日本医師会かかりつけ医機能研修制度”が平成28年度からスタートしたことも紹介した。

また氏自身が産婦人科医であることから、子宮頸がんワクチンを取り巻くわが国の現状―子宮頸がんの予防に関するHPVワクチンの有効性が科学的に示され、世界各国が子宮頸がん発生ゼロへ向けて邁進しているにもかかわらず、わが国ではワクチン接種の勧奨が中断し、子宮頸がんによる死亡は年に三千数百人にのぼり、それを大きく上回る子宮頸がんによる子宮摘出が行われている現状、そして、摘出を受けた患者の中には、これから妊娠し、子どもを産み育てるという希望を断念せざるを得ない例も多いという現状にも言及し、国による接種勧奨再開への期待も表明した。

【4】わたしは早期発見の大切さを知っている:I can understand that early detection saves lives.

海老名香葉子(エッセイスト)

「私は、おっぱいは自慢でございました」、「(授乳期間中は母乳の出が良かったので)絶対に乳がんになんかなるはずない、もう、自信を持っていました」という海老名氏だが、かかりつけ医で受けたマンモグラフィで乳がんが見つかり手術を受けた経験をもつ。予期せぬ乳がんの診断に対する驚きだけでなく、「(術後、麻酔から覚めた際)ああ、くたびれた。助かったわ。ああ、楽になったと感じた」、「早期発見すれば、(乳房は)ちゃんと残っています。傷はありますけど、残っています」、「がんは怖い、悔しい、けれども闘っています」など、率直な言葉で患者としての心情や早期発見の重要性を語った。人気落語家の妻であり母であり、たくさんの弟子をあずかる「おかみさん」として慕われる氏は、「早期発見の大切さ」以外にも、がん治療にあたって大切なこととして、人(主治医)を信頼すること、笑うこと、そして自分の健康は自分で責任を持ち日々を過ごすことを挙げていた。

【5】わたしは声を社会に届けることができる:I can make my voice heard.

大野真司(がん研有明病院院長補佐/乳腺センター長)

がんの啓発活動は、患者自身やがん治療に携わる医療関係者が社会に声を届ける行為である。

「教育と啓発という言葉があるが、教育は学んでいくことであり、学んだ後、行動にまでつながって啓発になるのではないか」と語る大野氏。そのため、小・中学校の子どもたちに対しては、がんに関する知識を伝えることが中心になってもよいが、大人に対しては、学んだ知識が何らかの行動に結びつくことが重要になるという。

ピンクリボン運動に代表される乳がんの啓発活動を例にあげると、主目的は、早期発見を目的とした乳がん検診の普及、予防や治療に関する知識の普及だが、がんを抱えつつ社会に生きる患者のサポートについて社会全体で考えてもらうことも忘れてはならない。

「啓発というのは大人(あるいは社会)に対してなんです。検診をちゃんと受けていると、早期発見できますよ、そうすると、やさしい治療で済みますよなどと伝えた結果、“検診を受けに行こう”、“周りにがんになった方がたくさんいらっしゃるから、サポートしていきましょう”という行動に移るところまでが啓発です」-がんに関する何かを社会に伝えようと声をあげ、受け取り手が行動を起こしてはじめて“声を社会に届けた”ことになる。

【6】わたしは健やかなくらしを選び取ることができる:I can make healthy lifestyle choices.

中村丁次(神奈川県立保健福祉大学学長)

がんで悩む人たちを対象にした健康食品やサプリメントは、それこそ無数といえるほど販売されている。このような状況下で栄養の専門家・健康の専門家はどのように考えているのか-「数年前、私の親父は大腸がんで亡くなりました。亡くなった後、ベッドを開けたら、中から朝鮮人参が山ほど出てきました」という中村氏は、以下のように率直に専門家としての立場を述べた。

「皆さん方が健康食品やサプリメントに期待されるという気持ちは、とてもよくわかります。しかし、私が専門としている栄養学というのは、皆さん方におこたえするには本当にまだ不十分です。この食べ物さえ食べていれば、がんにならないし、がんが治るというものはないと思ってください。(がんの予防で大切なことは、)太り過ぎないこと、痩せ過ぎないこと、脂質・塩分・糖分を過剰摂取しないこと、食物繊維を摂取することです」

それでは、“健やかな暮らしを選び取る”ために、食生活の面で今我々にできることは何か? 氏によれば、やはり、いろいろなものをバランスよく、偏らず、そして楽しくおいしく食べることが重要で、がんを意識しすぎて特定の食品にこだわり、栄養のバランスを崩すと、かえってがんを防ぐための免疫力を低下させかねないとのことである。

また、先に挙げた“太り過ぎないこと”とも関連する“腹八分目は健康に良いのか”についてもコメントがあった。実はこの件、10年程前に米国のグループが“腹八分目は健康に良い”という研究結果を出したものの、その翌年同じく米国の別のグループが“腹八分目と健康に関係はない”という結果を出し、それ以降論争になっていたという。結局2017年になりやっと出た結論は、“腹八分目は、中高年のメタボ対策には有効だが、成長期の小児や、痩せた高齢者には、何の意味もない食習慣である”というものであった。

現時点で言えることは、特定の食品にこだわらず、氏が「人類の最大の特徴」と呼んだ“雑食”を基本に、個々の年齢や健康状態に応じた量を摂取することが、食生活において実践可能ながん予防ということのようである。

(リノ・メディカル)

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