■平塚中郡薬剤師会が新方式
東海大学大磯病院薬剤科と平塚中郡薬剤師会は、外来患者が医薬品を服用した後の安全性を確保するため、地域の薬薬連携によって有害事象を集めるシステム「平塚中郡薬剤師会方式」を構築し、昨年7月から運用をスタートさせた。独自に作成した「有害事象ヒアリングシート」を使用し、薬局薬剤師が患者から得た有害事象の情報を記入。医薬品卸のMSを経由して製薬企業に伝達する仕組みである。この方式を全国に広げることで有害事象の報告数を増やし、最終的に薬局から医薬品医療機器総合機構(PMDA)への自発報告につなげたい考え。
薬機法では、医薬品の有害事象をPMDAに報告することが義務づけられているが、医療機関報告は企業報告の約1割以下と圧倒的に少なく、先進国の中でも日本の副作用報告件数は最下位に近いのが現状。実際、平塚中郡薬剤師会の会員薬局にアンケート調査を行った結果、副作用報告をしたことがないとの回答が55%に達し、PMDAに自発報告したことがある薬剤師はわずか4%だった。
こうした現状を打開するため、東海大大磯病院と平塚中郡薬剤師会は、地域の病院と薬局が連携して患者からの有害事象を集め、副作用報告を増やして外来患者の安全性を高める必要があると判断。薬局から医薬品卸経由で製薬企業に報告するシステムを構築し、昨年7月から運用を始めた。
現在、副作用報告を行う場合は、PMDAの指定する報告用紙に記載する必要がある。ただ、報告書の様式が複雑なため、副作用報告に慣れていない薬局薬剤師が記入するにはハードルが高いのが現状。そこで、PMDAの様式を簡便化し、患者イニシャルや有害事象の症状、使用薬剤名、有害事象との因果関係が否定できない薬剤名、経過・治療措置を記入する有害事象ヒアリングシートを独自に作成した。ヒアリングシートは、有害事象の経過を手書きで記載したり、印刷した薬歴データを貼り付けることもできる自由度を高くしたものとなっている。東海大大磯病院の鈴木優司薬剤科長は、「まず副作用のシグナルを拾い上げ、第一報を企業に伝えるのが目的」と説明する。
同方式の運用を開始し、2月現在の報告数は151件にまで増加。会員薬局135軒のうち報告薬局軒数は30軒、報告率は22.22%と2割を突破した。年間目標として報告数200件を掲げているが、少しずつ報告薬局数は増加傾向にあり、目標達成が視野に入ってきた。平塚中郡薬剤師会の今井裕久会長は「だんだん裾野は広がりつつある」と手応えを語る。
この取り組みを薬学実務実習での臨床教育にも広げている。薬剤師会と合同研修を実施し、将来的な副作用報告の意識づけをするのが大きな狙いだ。鈴木氏は「現在の薬学教育では副作用報告に関する教育は十分にできていない」と課題を指摘。「われわれの報告する1件の有害事象が使用上注意の改訂につながる」と意義を強調する。
同方式の大きな特徴は、有害事象ヒアリングシートを用いて薬剤師会単位で活用できること。それだけに平塚中郡に続き、近隣の薬剤師会に広がりを見せつつあるという。
鈴木氏は「この方式が全国に広がると、6万件程度の日本の報告数が倍増する可能性がある」と指摘。「全国から集まった膨大な有害事象報告によって副作用のシグナルが強化され、添付文書の改訂や国民に薬剤師の活動をアピールできることにつながる。この方法はどの地域でもできるので、全国で広めてほしい」と呼びかけている。
今後、有害事象ヒアリングシートを通じた副作用報告の取り組みを少しずつステップアップさせて成果を上げ、最終的には薬局からPMDAに自発報告できる体制を作りたい考えだ。