不明だった脳梗塞後の血液脳関門強度を制御する分子機構
金沢大学は2月27日、脳梗塞後の病態悪化に関わる、血液脳関門の破綻を調節する新たな仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の寳田美佳助教、堀修教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「GLIA」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
現在、脳梗塞に対する唯一有効な治療法として血栓溶解療法があるが、脳出血のリスクがあるため、その適用は脳梗塞発症後早期の患者に限られている。この脳出血リスクには血液脳関門の機能破綻が関連しており、治療可能時間の拡大のかせとなっている。
脳梗塞後の血液脳関門の機能破綻は、脳梗塞急性期に起こり、その後の炎症性細胞の集積や梗塞巣の形成、予後の悪化と関連している。しかし、脳梗塞後の血液脳関門強度を制御する分子機構については、これまで十分に解明されていなかった。
NDRG2-MMPシグナルが新たな治療標的となる可能性
今回、研究グループは、アストロサイトにおいて発現する遺伝子「NDRG2」が、脳虚血後の血液脳関門破綻を制御していることを、マウス脳梗塞モデルを用いて解明。脳梗塞後、アストロサイトでNDRG2の発現が増加しており、NDRG2を人為的に欠失させたマウスでは、脳梗塞巣の拡大、炎症性細胞の浸潤亢進が認められ、それらに先んじて血液脳関門の破綻が亢進していたこと、その原因分子としてタンパク質分解酵素の一群「MMP」を同定し、同分子がアストロサイト内でNDRG2により発現が制御されることを明らかにした。
これらの結果は、アストロサイトで発現するNDRG2がMMPの発現調節を介して、脳梗塞後の血液脳関門の破綻や炎症性細胞の浸潤を制御しており、脳梗塞の重篤を抑える重要な役割を担っている可能性を示唆しているという。
今回、アストロサイトの「NDRG2-MMPシグナル」という新たな治療標的の可能性が明らかになった。脳梗塞に対する現在唯一有効な治療法である血栓溶解療法との組み合わせにより、治療可能時間の延長など、脳梗塞急性期治療に有効な新規治療戦略への展開が期待される。
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