IL-7とCCL19の両方を同時に産生するCAR-T細胞
日本医療研究開発機構(AMED)は3月6日、固形がんに対して極めて治療効果の高い免疫機能調整型次世代キメラ抗原受容体発現T細胞である「Prime CAR-T細胞」を開発したと発表した。これは、山口大学大学院医学系研究科・免疫学講座の玉田耕治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌である「Nature Biotechnology」(4月号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
血液がんに対して著明な治療効果を発揮することで注目を集めているキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:CAR)-T細胞療法だが、これまでのところ、固形がんに対しては効果が乏しいとされている。固形がんに対するCAR-T細胞療法では、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が重要と考えられているが、現状ではこの問題を解決する技術は確立されておらず、CAR-T細胞療法における最大の課題のひとつとなっていた。
研究グループは、免疫機能をコントロールする能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題の解決が図れるのではないか、という考えに基づき、免疫機能調整能力を有する次世代CAR-T細胞である「Prime CAR-T細胞(Proliferation-inducing and migration-enhancing CAR-T細胞)」の開発に取り組んでいる。今回のPrime CAR-T細胞研究では、サイトカイン「IL-7」とケモカイン「CCL19」の両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞(7×19 CAR-T細胞)を開発したという。
長期的ながんに対する免疫記憶も形成
研究グループは、マウスモデルを用いた研究によって、7×19 CAR-T細胞は腫瘍内部にT細胞や樹状細胞の著しい浸潤を誘導し、投与を受けた宿主側のT細胞と協調して相乗的に強力な抗がん効果を発揮することを証明。さらに、7×19 CAR-T細胞の投与によって治療を受けたマウスには長期的ながんに対する免疫記憶も形成されており、がんの再発を予防できる可能性があることも明らかにしたという。
7×19 CAR-T細胞のようなPrime CAR-T細胞技術は、患者の体にもともと備わっている免疫機能をコントロールして協調作用を起こす分子の「デリバリーシステム」としての役割も担っており、これまでのCAR-T細胞の概念を大きく変えるパラダイムシフトと言えるという。Prime CAR-T細胞技術は、これまで血液がんにしか有効性が認められなかったCAR-T細胞療法の適応範囲を固形がんにまで拡大させる、画期的ながん治療法につながることが期待される。
なお、今後研究グループは山口大学発ベンチャーのノイルイミューン・バイオテック社と協力し、Prime CAR-T細胞のがん患者における治療効果や安全性を評価するための臨床試験を2年以内に開始できるよう、研究開発を進めていくとしている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース