紙力増強剤や接着剤などの原材料となる化学物質
国立がん研究センターの社会と健康研究センター予防研究グループは3月3日、多目的コホート(JPHC)研究から、アクリルアミド摂取量と乳がん罹患についての研究結果を発表した。この研究成果は、「Cancer Science」オンライン版で先行公開されている。
画像はリリースより
アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤などの原材料として利用されている化学物質。国際がん研究機関(IARC)では、ヒトに対して、「おそらく発がん性がある物質」とされている。近年、アスパラギンと還元糖を含む食品を120℃以上の高温条件下で加工・調理すると、化学反応を起こすなどしてアクリルアミドが生成され、食品中にも含まれていることが判明している。
食品安全委員会では、過去に行われた人を対象とした疫学研究や動物実験の結果を総合的にみて、日本人における食事からのアクリルアミド摂取による発がん性については、懸念がないとはいえないとし、日本での研究が求められていた。
血中バイオマーカーを用いたさらなる検討も必要
今回の研究では、1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内に在住だった40~69歳の人々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答し、その時点で乳がんになっていなかった女性約4万9,000人を、2013年まで追跡した調査結果にもとづいて、アクリルアミド摂取量と乳がん罹患との関連を調査。アクリルアミドの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ)という比較的簡易なアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定したという。
この研究の追跡調査中(平均15.4年)に、計792人の乳がん罹患を確認。5年後調査時のアンケートの回答から計算したアクリルアミド摂取量について、対象者を3つのグループ(低・中・高)に分けて、その後の乳がん罹患を比較した。その結果、アクリルアミド摂取量が「低」のグループを基準とし、それ以外のグループの乳がんリスクを比較したところ、5年後調査開始時のアクリルアミド摂取量と乳がん罹患との間に統計学的有意な関連はみられなかったという。さらに、アクリルアミドの代謝や乳がん罹患に関わる要因(喫煙習慣、コーヒー摂取量、アルコール摂取量、体格、閉経状態)、乳がんの種類によって細かく調べてみても、アクリルアミド摂取量と乳がん罹患との間に統計学的有意な関連はみられなかったとしている。
これらの研究結果から、欧米からの報告と同様に、日本人においてもアクリルアミド摂取量と乳がん罹患との関連は認められないことが示唆された。また、日本人のアクリルアミド摂取量は欧米に比べて少ないことも報告されており、相対的にみてアクリルアミド摂取量の少ない日本人において関連がなかったことが示された。その一方で、今回の研究では、簡易的なアンケートを用いてアクリルアミド摂取量を推定したことや、個人差のある代謝を考慮していないことなどの考慮すべき点があるとして、研究グループは、「今後はアクリルアミドだけでなく、毒性の強いグリシドアミドなど、代謝物の影響も明らかにするために血液中のバイオマーカーを用いたさらなる検討を行う必要がある」と述べている。