体内の水分を調節する中心的な存在「バソプレシン」
名古屋大学は2月27日、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)を用い、視床下部バソプレシン ニューロンを分化誘導させる方法を確立したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の小川晃一郎客員研究員、同大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科の須賀英隆講師、同大学医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の有馬寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
視床下部はさまざまなホルモンを分泌する神経内分泌組織で、体温や食欲の調節など、全身の恒常性を保つために重要な働きをしている。なかでも、バソプレシンと呼ばれる視床下部ホルモンは、体内の水分を調節する中心的な存在。病気によってバソプレシンが分泌されなくなると、尿の量が1日数リットルに増え(尿崩症)、脱水がひどくなって生命の危機に陥る場合もある。
現在、根治療法は存在せず、不足しているバソプレシンを注射や点鼻あるいは内服薬で補う補充療法が行われている。しかし、生涯に渡ってホルモンを投与し続けなくてはならない問題点や、変動するホルモン必要量に対して、現行の補充治療では細やかに対応できない問題点があるという。
成熟した視床下部ホルモン産生神経細胞の誘導に成功
今回、研究グループは、ヒトES細胞を用いて、視床下部のホルモンを産生するニューロンを分化させる培養技術の確立を目指した研究を実施。その結果、胎児の発生過程を試験管内で再現する方針で培養法を工夫することで、腹側あるいは背側の視床下部を限定して作ることが可能になったという。さらに、背側視床下部にした細胞を半年間培養した結果、成熟した視床下部ホルモン産生神経細胞を誘導することに成功。こうして得たバソプレシンニューロンは生体内同様、実際にバソプレシンを分泌し、さらに分泌刺激に対して反応を示すことを世界に先駆けて証明し、分化効率の向上も達成したとしている。
今回の研究成果は、尿崩症に対する再生医療の基盤技術として第一歩を踏み出したと言え、今後はヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)へ技術展開していく予定。視床下部はヒトの脳でも非常に小さな領域であり、なおかつ生命維持に直結した働きをしているため、ヒトから直接細胞を採取してくることが難しい。今回確立した分化法では、ヒト胎児の視床下部発生を再現していることから、「ヒトの視床下部を試験管内で再現したモデルとしての利用や、疾患の発生メカニズムを探求するモデルとしての応用も見込める」と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース