■中心的役割、薬剤師が担う
市立芦屋病院は2月下旬から、非がん慢性疼痛患者の鎮痛薬を削減する「いたみどめ調整入院」の受け入れを本格的に開始した。慢性疼痛の中には、現在使用可能な薬を使っても十分な効果が期待できない痛みが存在する。しかし、そんな痛みに対しても多数の鎮痛薬が処方されているのが現状だ。市立芦屋病院では、多職種からなるサポーティブケアチームが関わり、約2週間かけて不必要な鎮痛薬を削減。同院の薬剤師はその中心的な役割を担う。今後、症例データを蓄積し、取り組みによる薬剤費削減効果などを示したい考えだ。
この取り組みは、柴田政彦氏(大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座教授)がリーダーを務める、厚生労働省慢性疼痛診療体制構築モデル事業の一環として実施されるもの。モデル事業に加わる各地の大学病院などで対象患者を把握すると市立芦屋病院に紹介。外来診察で患者の状況を把握した上で、入院してもらい鎮痛薬の削減を進める。
慢性疼痛のうち、がんに伴う痛みには鎮痛薬が効果を発揮するが、がんではない慢性疼痛には鎮痛薬の十分な効果が期待できない場合が少なくない。医師は通常、患者の痛みの訴えに応じて鎮痛薬を処方する。
薬が効きにくい慢性疼痛では、一時的に痛みが緩和される場合もあるものの、時間が経てば患者はまた痛みを訴える。それを受けて鎮痛薬の増量や追加を繰り返すが、痛みは緩和されないという実態がある。
鎮痛薬の増量や追加によって認知機能の低下や便秘、傾眠などの副作用症状が発現すると、痛みが軽減されないだけでなく、患者は不利益を被ることになってしまう。とはいえ鎮痛薬を中止するのも容易ではない。市立芦屋病院薬剤科部長の岡本禎晃氏は「痛みが改善されていないと自覚しながらも薬を飲むことで安心し、薬に依存している患者は少なくない」と話す。
こうした問題に「いたみどめ調整入院」で対応する。まずは対象患者を外来で2回診察し、状況を把握する。その上で個々の患者に応じた入院中の減薬プロトコールを岡本氏が立案。医師の了承を得て入院中の減薬に取り組む。
薬を急に減らすと退薬症状が出現したり、患者が不安を感じたりする。それを防ぐため、基本的に医療用麻薬の貼付剤や経口剤は注射剤に置き換え、7~10日かけてその濃度を段階的に薄めて最終的には中止する。神経障害性疼痛治療薬や抗うつ薬も7日間ほどかけて段階的に減量し、中止する。非ステロイド性消炎鎮痛薬やビタミン剤、循環改善剤などはすぐに中止する。
入院期間中、岡本氏は患者のもとに毎日足を運んで対話して痛みや副作用、退薬症状をモニタリングし、薬の調整を担当する。このほか多職種の関わりによって患者には、薬が効く痛みではないことや、痛みと付き合いながら日常生活を送る工夫などを学んでもらうという。
退院後は、元の状態に戻るのを抑止するため同院の外来診察で定期的にフォローする。薬剤師が外来でまず患者の状況を把握した上で、医師が診察する体制を構築している。
モデル事業開始前から数えるとこれまで約10人の患者に実施した。岡本氏は「医療用麻薬を中止すると便秘もなくなり、下剤が不要になる。それだけでも2剤、他の薬剤も含めると3~4剤は削減できる。副作用症状は軽減し、食欲も増して意識もはっきりする。QOL向上も期待できる」と語る。
今後、症例データを蓄積し、この取り組みによる薬剤費減少、認知機能改善、副作用軽減などの効果を明らかにしたい考え。診療報酬が新設されれば全国の病院に広まるが、それにはエビデンスを構築する必要がある。
このほか、「薬が効きにくい痛みがあることを広く知ってもらいたい」と岡本氏。
「鎮痛薬が効いているかどうかを医療者がしっかり確認していない。効いていなければ中止したり切り替えたりすればいいが、他の鎮痛薬を追加することが多い。そのために鎮痛薬が増えていってしまう」と話している。