■ICH指針改定案示す
日本製薬工業協会の医薬品評価委員会基礎研究部会は、日米欧医薬品規制調和会議(ICH)で薬剤による心室分極遅延(QT間隔延長)リスクを評価する非臨床・臨床試験の実施方法を定めた「S7B」「E14」ガイドライン改定案をまとめた。これまでの臨床試験ではQT延長が必ずしも不整脈発生リスクにつながらないにもかかわらず、有望な化合物が開発中止に追い込まれてきた。こうした状況を打開するため、製薬協はQT延長を評価する「TQT試験」の廃止を提案した。動物実験の代替試験として期待が高いコンピュータ上で心筋細胞の活動電位変化を検討するインシリコ試験、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いたインビトロ試験は評価系として十分に確立していないとして、既存の試験で催不整脈リスクが示された場合のフォローアップ試験で利用すべきとの見解も示した。これら改定により、有望新薬の開発にブレーキをかけないようにしたい考えだ。
薬剤に起因する催不整脈のうち、QT延長を伴う催不整脈は全体の約3割に上るといわれている。これまでQT延長の判定によって不整脈の発生リスクを評価しており、非臨床試験ではICH-S7B、臨床試験ではICH-E14の二つのガイドラインで実施方法が定められている。
ただ、これら手法では、QT延長を予測できても、催不整脈までは予測できないため、有望な化合物が開発中止に追い込まれるという問題も指摘されていた。
非臨床試験では、「hERG試験」とサルやイヌなど大動物を用いてQT延長の評価を行うのが原則。ICHでは、2013年からS7BとE14の見直しに向けた議論を進めており、ガイドライン見直しをリードする米国の研究団体「CiPA」では、非臨床でインシリコ試験、iPS細胞由来心筋細胞を用いたインビトロ試験を定型的な試験としてQT延長を評価し、そこで問題がなければ臨床試験で評価していく改定案を打ち出している。
こうした中、製薬協は、CiPAのコンセプトには課題が多く、検討が必要との認識から、基礎研究部会に所属する61社を対象にガイドライン改定に関するアンケートを実施。その結果、米CiPA案に対して「適切だが、戦略の見直しが必要」との意見が50%を占め、動物実験についても、催不整脈リスクを評価する上で全体の7割が「必要」と回答した。
一方で、インシリコ、iPS細胞由来心筋細胞を用いた評価系については、心血管系の有害事象を評価する定型的なコアバッテリー試験として導入するためには、まだ精度が十分ではないため、「まだ検討が必要で、ケース・バイ・ケースで導入すべき」との回答が最も多かった。
製薬協では、アンケート調査結果に基づき、CiPAへの対案となるガイドライン改定案を発表した。まず、既存のhERG試験と動物試験で催不整脈性リスクを評価し、そこで低リスクと判断された化合物は第I相試験に進める。
中リスク・高リスクが示された化合物はフォローアップ試験としてインシリコ試験とiPS細胞由来心筋細胞を用いた試験を行い、脱落か第I相へのステージアップを判断する。
臨床試験で必要なTQT試験については、催不整脈の発生リスクを評価することが難しいことを踏まえ、廃止を提言した。通常の第I相試験で心血管系の有害事象などを評価し、そこでの知見を後期段階の治験で開発デザインに反映させることで、有望な化合物の開発にブレーキをかけないようにしたい考えだ。