酸化ストレスで誘導されるネクローシス
理化学研究所は2月21日、ラット虚血性心疾患モデルにおいて、心筋に保護効果を示すIM化合物「IM-17」を開発したと発表した。この研究は、同袖岡有機合成化学研究室の闐闐(どど)孝介専任研究員、袖岡幹子主任研究員らの共同研究チームによるもの。研究成果は「ACS Medicinal Chemistry Letters」に掲載されている。
画像はリリースより
虚血性心疾患を含む心疾患は、日本人のがんに続く第2位の死因。虚血性心疾患は、心筋に血液を運ぶ血管の閉塞により、血流が遮断されて虚血状態になることによって生じる疾患であり、狭心症や心筋梗塞などが知られている。その治療には閉塞した血管を開通させることで虚血状態を解消することが必要だが、血流再開時に逆に組織に損傷を与えてしまう虚血再灌流障害が問題となっている。
なぜ、虚血再灌流障害が起きるのかは、完全にわかっていないが、活性酸素種が大量に発生し、損傷を受けた部位では細胞が膨潤した「ネクローシス」がみられることが知られている。これまでに袖岡主任研究員らは、酸化ストレスで誘導されるネクローシスを抑制する化合物としてIM化合物「IM-54」を開発していた。
ラットの不整脈や突然死を著しく抑制
今回、共同研究チームはIM-54をベースにして、新たにIM-17を開発。IM-17は、IM-54のアルキル側鎖にアミノ基を導入することで、IM-54よりも水溶性が高く、かつ肝臓での薬物代謝を受けにくいという。
このIM-17の効果を、虚血再灌流障害により不整脈が誘発されるラット疾患モデルで検討したところ、IM-17が不整脈の発生を著しく抑制し、ラットの突然死を抑えることが判明。突然死の抑制効果は、虚血後に投与してもみられたことから、心筋梗塞などで心虚血に陥った後でもIM-17が有効である可能性を示しているという。
今回の研究成果は、虚血性心疾患の新薬や治療法の開発に貢献すると期待され、また、虚血再灌流障害は心臓だけではなく脳や腎臓などさまざまな臓器でもみられることから、他の臓器での保護効果も期待できるという。現在、研究チームはIM化合物の作用機序解明を進めており、「虚血再灌流障害の詳しいメカニズムが解明されれば、新しい治療法の開発につながると考えられる」と述べている。
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