スキンセンサーで計測した心電波形を皮膚上に表示
東京大学は2月19日、薄型で伸縮自在なスキンディスプレイの製造に成功し、スキンセンサーで計測された心電波形の動画を、皮膚上に貼り付けたスキンディスプレイに表示できるセンサーシステムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科の染谷隆夫博士教授を中心とした東京大学と大日本印刷株式会社の研究チームによるもの。研究成果は、アメリカ科学振興協会(AAAS)年次大会で発表された。
画像はリリースより
超高齢社会が到来した日本では、医療費の増加や医療・介護現場の労働力不足に対策を講じつつ、QOLを向上するために、セルフメディケーションやセルフケアの重要性が増している。すでに特定の医薬品購入に対する新税制としてセルフメディケーションの推進が始まっており、今後、自宅で自分自身や家族の健康に責任を持ち、管理するセルフケアの仕組みづくりが急がれている。そのため、高度に発展した情報通信技術を駆使した健康管理システムが期待されており、特に、自宅や介護施設、病院など場所や時間を問わず、「いつでも、どこでも、誰もが簡単に、正確に生体情報をモニタリングし、その情報にスムーズにアクセスできる技術」が求められている。
研究グループは、2009年5月に世界初となる伸び縮みする16×16個の有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイを発表。2016年8月に厚さが1umの極薄の有機EL素子で7セグメントディスプレイを発表していた。
3年以内の実用化を目指す
今回開発したスキンディスプレイは、16×24個(画素数:384)のマイクロ発光ダイオード(マイクロLED)が薄いゴムシートに等間隔で埋め込まれており、全体の厚みは約1mm。繰り返し45%伸縮させても電気的・機械的特性が損なわれない。薄型・軽量で伸縮自在なため、皮膚に直接貼り付けても人の動きを妨げることがなく、装着時の負担が大幅に低減されている。
発光素子としては、無機半導体を発光材料としたマイクロLEDと独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術を駆使することによって、従来の伸縮性ディスプレイよりも圧倒的な大気安定性と機械的耐久性を同時に達成。伸縮自在なディスプレイを皮膚の形状に合わせてフィットさせ、かつ人の動きに追従させた状態で、1画素の故障もなく動画を表示できたのは、 世界初だとしている。
スキンディスプレイは直接皮膚に貼り付けて、皮膚呼吸できるナノメッシュ電極と無線モジュールを組み合わせたスキンセンサーで計測した心電波形の動画をディスプレイに表示する。この心電波形は、スマートフォンでも受信でき、リアルタイムでスマートフォンの画面で波形を確認したり、クラウドやメモリに保存したりすることができるという。これまでナノメッシュ電極を活用して、 温度、圧力、筋電を計測していたが、今回、初めてナノメッシュ電極で心電波形の計測ができるようになったという。
今後、大日本印刷では、伸縮性を有するデバイスの構造最適化によるさらなる信頼性向上、製造プロセス開発による高集積化、大面積化といった技術課題を解決し、3年以内の実用化を目指す。研究グループは「人に優しいスキンエレクトロニクスによって、スマートフォンやタブレット端末よりも情報へのアクセシビリティが大幅に向上され、子供から高齢者に至る全世代の QOLが向上されると期待される」と述べている。
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