日本とイタリアの胆道がん412例をゲノム解析
理化学研究所(理研)は2月16日、日本とイタリアの胆道がんの大規模ゲノムシークエンス解析を行い、多数の胆道がんの原因遺伝子や変異を同定し、その発がん機構を解明したと発表した。この研究は、同研究所統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤田征志研究員と北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室IIの中村透助教、平野聡教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Hepatology」に掲載されている。
画像はリリースより
胆道は、肝臓で産出された胆汁を十二指腸へ輸送、または蓄える(胆嚢)器官。その上皮細胞から発生した腫瘍が胆道がんであり、発生部位によって、肝内胆管がん、上部胆管がん(肝門部胆管がん)、下部胆管がん、そして胆嚢がんに大きく分類される。これらの部位によって、発症リスクや悪性度、予後などの生物学的特性が異なり、また外科手術などの治療法も変わる。
MUC17タンパク質欠失で再発率が有意に高い傾向
今回、研究グループは、日本とイタリアの胆道がん、412例の大規模なゲノム解析を行い、分子生物学的特性を調査した。その結果、TP53、KRAS、SMAD4、NF1、ARID1A、PBRM1、ATRなどの32個の遺伝子と、今回新たに同定したMUC17遺伝子が、胆道がん発症にとって重要な変異遺伝子であり、それらは患者の予後や再発リスクと強く関連していることが判明。特に7番染色体に位置するMUC17遺伝子の欠失が64%の症例で観察され、MUC17タンパク質が欠失する胆道がんは周辺血管への浸潤傾向が強く、再発率が有意に高い傾向にあったという。
また、全ゲノムシークエンス解析のデータとエピゲノム解析のデータを用いて胆道がんの発生起源細胞をコンピューターで探索したところ、肝臓内に発生する肝内胆管がんの一部は、胆道上皮細胞ではなく、肝細胞由来であることがあきらかになったという。さらに、胆道がん患者において、BRCA1/2やMLH1、MSH2などのDNA修復遺伝子の生殖細胞の変異が観察された。これは、少なくとも胆道がんの11%にさまざまなタイプの遺伝性腫瘍が含まれており、胆道がんの診療やゲノム医療上、留意する必要があることを示しているという。
今回の研究成果により今後、胆道がんの詳細な分子生物学的な分類が進展し、その分類に応じて治療方針を決定する個別化医療(がんゲノム医療)が進むものと期待される。また、胆道がんのゲノム診断を行うにあたり、これらの遺伝性腫瘍の一部に対してPARP阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤など有効な治療法の適応が考えられる一方、遺伝性乳がんや卵巣がんと同様に、遺伝性腫瘍の可能性について患者およびその家族とがんの遺伝的リスクについて議論していく必要がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・理化学研究所 プレスリリース