推計患者数1000万人以上の慢性腎臓病
熊本大学は2月19日、高血圧患者を対象とした臨床試験の結果を解析し、ステージが進行した慢性腎臓病を併発している高血圧患者では、 アンジオテンシン受容体拮抗薬を用いた降圧治療が、他種降圧薬による治療よりも心血管疾患の発症や腎機能悪化などを有意に抑制していると発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部(医学系)の光山勝慶教授ら研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病(CKD)は、国内では 1000万人以上が罹患していると推計されている。尿を濾過する糸球体の濾過量が減少することによる腎機能低下、もしくは腎臓の障害が3か月以上続くと、CKDと診断される。CKDはステージが進行すると、透析を必要とする末期腎不全にいたるリスクが高いだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患の発症リスクが著しく増加し、予後が極めて悪くなる。しかし、現状では、進行したCKD患者の予後を改善する対策は確立していない。
複合エンドポイント発症数、ARB治療群で有意に少なく
研究グループは、全国168施設の診療所や病院の医師が参加した多施設共同研究である「ATTEMPT研究」に登録した外来高血圧患者の中で、慢性腎臓病を併発している高血圧病患者について解析を実施。アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を用いた降圧治療群と非ARB降圧薬を用いた治療群間で、心血管疾患の発症や腎機能悪化といった評価項目となる病状(複合エンドポイント)発症に対する効果の比較検討を行った。
研究に登録した外来高血圧患者1,222人のうち、ステージの進行した慢性腎臓病を併発している高血圧患者は187人だった。追跡期間の3年間に、ARB治療群と非ARB治療群ともに血圧コントロールは良好であり、血圧はほぼ同程度に低下していたという。しかし、心血管疾患や腎機能悪化といった複合エンドポイント発症数は、ARB治療群で11例、非ARB治療群で22例であり、ARB治療群の方が非ARB治療群よりも有意に少ない結果となった。さらに、尿アルブミン排泄量の経過は、ARB治療群は非ARB治療群よりも有意に少ない量だった。一方、その他患者群(進行した慢性腎臓病を併発していない高血圧症患者群)ではARB治療群と非ARB治療群間で心血管疾患や腎機能悪化の複合エンドポイント発症数に大きな違いは無く、ARBの優越性は進行した慢性腎臓病合併高血圧患者に特有であることが明らかになったとしている。
ARBは既に多種類の後発品が販売されており、この種の薬剤を進行した慢性腎臓病合併患者の高血圧治療に適切に使用することにより、患者の予後改善が期待できるだけでなく、医療費の抑制効果も期待できる。研究グループは、「研究成果を日常診療で活用することにより、進行した慢性腎臓病を併発した高血圧患者のQOLや予後の改善が期待できる」と述べている。
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