国内患者数は約1000~1500万人と推定されるNAFLD
京都大学は2月15日、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)およびNASH由来肝細胞がんをふくむ非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者と対照群のDNAを用いた網羅的SNP関連解析を行い、新たな疾患関連遺伝子「DYSF」を含む、4つの疾患感受性遺伝子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科附属ゲノム医学センター・松田文彦教授、済生会吹田病院・岡上武名誉院長を中心とした研究グループによるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
NAFLDは非飲酒者で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく、肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称。国内に約1000~1500万人の患者が存在すると推定されている。NAFLDには良性の経過をたどる単純性脂肪肝と、肝細胞変性壊死、炎症性細胞浸潤、線維化を伴い予後不良のNASHが存在し、NASHの一部は肝硬変、肝がんに進展する。
NASHの国内の患者数は約200万人前後と推定され、毎年1,000~2,000人程度がNASH由来の肝細胞がんを発症していると考えられている。NAFLDは肥満、糖尿病、脂質異常症と強く関連し、メタボリックシンドロームの肝臓での表現型と言われる。NAFLDの発症・進展には、種々の因子が関与しており、遺伝的な素因も注目され研究が進められてきた。しかし、その全容はまだ明らかにはなっておらず、また、得られた知見の臨床への応用も十分ではなかった。
NASH由来肝細胞がんの発症、最大15.9倍に
研究グループは、肝生検によって診断した476人のNASHおよび58人のNASH由来肝細胞がん患者を含む902人の日本人NAFLD患者のゲノムDNAを収集し、7,672人の対照検体との間で、ゲノム上に分布する約10万個の一塩基多型(SNP)の頻度を比較する全ゲノム関連解析(GWAS)を行った。その結果、DYSF、GCKR、GATAD2A、PNPLA3の4つのNAFLD感受性遺伝子の候補を同定。三好型筋ジストロフィーとの関連が報告されているDYSFは、NASH由来肝細胞がんの発症との関連が新たに示された(p値5.2×10-7、オッズ比1.9(95%信頼区間1.7-2.1)。GCKRは単純性脂肪肝に、GATAD2AはNASHに、PNPLA3はそのいずれにも関連することがわかったという。
また、同研究で得られた遺伝因子を組み合わせたポリジェニックリスクスコアの手法を用いて5段階の発症リスク群に分類し、それぞれの群を最もリスクが低い群と比較。その結果、NAFLDの発症リスクはオッズ比(95%信頼区間)で、リスクが低い群から順に1.9(1.4-2.6)、2.2(1.7-3.1)、3.3(2.5-4.4)、5.0(3.8-6.6)となり、NAFLDからNASHへの発症では、最もリスクが高い群で4.4(2.7-7.4)、NASHからNASH由来肝細胞がんへの発症では、同じく最もリスクが高い群で15.9(3.7-144.3)となったという。
今回、得られた手法を用いて、病状進展のリスクが高い患者に対して重点的に治療や生活習慣改善の指導を行うことで、効率的な医療が可能になると考えられる。研究グループは、「本研究は世界で最大規模の検体を用いた解析だが、患者の数はまだ限られており、より信頼性の高い結果を得るためにはさらに多くの検体を用いた再現性の検証が求められる」と述べており、引き続き日本人の検体を収集し、解析を継続する予定。
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