造骨型の骨転移病変を誘導
東京医科歯科大学は2月6日、がん細胞から分泌されたマイクロRNAが、周囲の間葉系細胞の骨形成を促進し、造骨型の骨転移病変を誘導することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科細胞生理学分野の佐藤信吾講師らの研究グループが、同大学院整形外科学分野、同大学院分子生命情報解析学分野、虎の門病院内分泌代謝科、長崎大学病理学分野、国立がん研究センター研究所およびがん研究会と共同で行ったもの。研究成果は「Proceedings National Academy of Science of United States of America」に掲載されている。
画像はリリースより
がんの骨転移病変は、骨形成が亢進する「造骨型」骨転移と、骨吸収が亢進する「溶骨型」骨転移に大別される。がんの種類によって骨病変のタイプは異なるが、骨病変を誘導する因子については、これまでよくわかっていなかった。研究グループは、骨病変のタイプを規定する新たな因子として、マイクロRNA(miRNA)に注目。これまでの研究において、骨の細胞の分化を制御する複数のmiRNAの同定に成功している。また、近年の研究により、miRNAがエクソソームに含まれて細胞外へと分泌され、周囲の細胞の機能に影響を与えることも明らかになり、がん細胞も多数のmiRNAを分泌していると考えられている。
「hsa-miR-940」が遺伝子の発現を制御、骨分化を促進
今回、研究グループは、造骨型骨病変を形成する3種類のヒトがん細胞株(前立腺がん細胞株:C4、C4-2、C4-2B)、溶骨型骨病変を形成する3種類のヒトがん細胞株(乳がん細胞株:MDA-MB-231、骨髄腫細胞株:KMS11、U266)の培養上清から超遠心法にてエクソソームを抽出し、エクソソーム中に含まれるmiRNAの網羅的発現解析を行った。その結果、造骨型骨病変を形成するがん細胞株からの分泌が亢進している計8種類のmiRNAを同定。同定されたmiRNAを骨芽細胞の前駆細胞であるヒト間葉系幹細胞株に過剰に発現させ、細胞分化に与える影響を検討したところ、hsa-miR-940というmiRNAが著明な骨形成促進作用を有することを見出したという。またhsa-miR-940は、ARHGAP1、FAM134Aという2つの遺伝子の発現を制御することで、骨分化を促進することも明らかにしたとしている。
さらに、通常は溶骨型骨病変を形成するヒト乳がん細胞株にhsa-miR-940を過剰に発現させ、免疫不全マウスに移植したところ、多数の石灰化病変を含む造骨型の骨病変が誘導された。病変部の解析を行ったところ、がん細胞から分泌されたエクソソームが周囲の宿主間葉系細胞に取り込まれ、これらの細胞の骨形成が誘導されたことが判明した。
今回の成果について、研究グループは、「骨転移病変の形成が、がん細胞から分泌されるmiRNAによって誘導されることを世界に先駆けて明らかにした研究であり、さらなる骨転移の分子機序の解明やmiRNAを標的とする新たな骨転移治療法の開発につながることが期待される」と述べている。
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