多くのバリエーションを持つKIRファミリー
北海道大学は2月13日、同大大学院薬学研究院生体分子機能学研究室・創薬科学研究教育センターの前仲勝実教授と黒木喜美子助教とアイバイオズ株式会社が新規免疫チェックポイント抗体医薬品の開発を目指した共同研究を開始したと発表した。
近年、免疫治療と呼ばれる新しいがん治療法が注目されている。がん細胞は生物にとっては異物であるため、通常は免疫の攻撃対象となるが、がん細胞は免疫による攻撃を回避する仕組みを有しており、免疫細胞上の分子とがん細胞上の分子が結びつくと、免疫細胞はがん細胞に対する攻撃を止める。免疫細胞とがん細胞のこのような結合を食い止める薬として開発されたのが、免疫チェックポイント抗体医薬品だ。
NK細胞は免疫細胞の一種であり、がん、感染症、移植時拒絶反応、自己免疫疾患などの制御に重要な役割を果たしている。NK細胞の表面には、KIR(killer cell immunoglobulin-like receptor)というペア型受容体ファミリーが存在する。KIRファミリーは非常に多くのバリエーションを持ち、反応を抑える「抑制型受容体」と、反応を進める「活性型受容体」が存在している。
NK細胞の活性化は、抑制型KIRと活性型KIRとの発現量比と、標的とする細胞上のリガンドの有無に依存しており、NK細胞の活性化について研究するには、多くのバリエーションを持つKIRのそれぞれを区別する必要がある。しかし、KIRファミリーはNK細胞の細胞外ドメインの形がそれぞれ似ているため、特定のKIRと対応する、特異性の高い抗体が少なく、KIRによるNK細胞活性化メカニズムの理解や人工的制御法の確立は困難だったという。
活性型KIRのひとつ「KIR2DS1特異的抗体」の作製に成功
今回、前仲教授らは、活性型KIRのひとつであるKIR2DS1特異的抗体の作製に成功。これらの抗体を用いた、KIR2DS1受容体を介するNK細胞賦活化やリガンド特異的なNK細胞活性化抑制を目的として、臨床応用につながる基礎データ収集に取り組んでいく予定だという。
前仲教授らは、上記の免疫治療分野に関する抗体医薬創製を目指した共同研究を加速し、アイバイオズ社は、同大の研究成果を社会に還元する産学融合ライフイノベーションセンター(センター長:前仲教授)に参画。新薬創製を目指して、産学融合による研究開発を推進するとしている。
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