ごく一部の特殊な血管内皮細胞が大量に血管内皮細胞を産生
大阪大学は2月9日、血管の内腔を覆う血管内皮細胞の中に血管を作る源となる血管内皮幹細胞が存在することを世界にさきがけて発見したと発表した。この研究は、同大微生物病研究所の若林卓研究員、内藤尚道助教、高倉伸幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Stem Cell」に掲載されている。
画像はリリースより
全身に張り巡らされている血管は、血液を体の隅々まで届けるだけでなく、さまざまな生理活性物質を分泌して組織や臓器を正常に維持している。多くの組織には、組織が障害された際に細胞を産生し組織を再生する幹細胞が存在することが知られているが、血管ではこのような組織再生における中心的な役割を果たす幹細胞が見つかっていなかった。そのため、血管を再生させることは困難とされていたが、研究グループはこれまでに、Side Population(SP)法を用いて、既存の血管の中のごく一部の特殊な血管内皮細胞が大量に血管内皮細胞を産生する能力を有することを報告していた。
血友病Aモデルマウスの止血異常を改善
今回の研究では、その特殊な血管内皮細胞を肝臓の血管から分離して、網羅的遺伝子解析を行うことで、特異的に発現する分子(CD157)を同定。CD157陽性の血管内皮細胞は、全身の太い血管の内腔に存在していることが明らかになった。また、CD157陽性血管内皮細胞は、試験管内で大量に血管内皮細胞をつくり出すことができ、生体内でも血管が障害された際には、多数の血管内皮細胞を作り出して血管を再生させる働きをもつ幹細胞であることが判明したという。
この血管内皮幹細胞を、マウスの血管障害部位に移植すると長期間にわたって血管が再生。これにより、幹細胞を用いた細胞移植法、すなわち血管内皮幹細胞移植法をマウスモデルにおいて世界で初めて開発したとしている。さらに、この血管内皮幹細胞移植法を用いて血友病マウスに第VIII因子を産生することができる内皮幹細胞の移植を実施。すると肝臓の血管内皮細胞を置き換えることができ、長期間にわたって第VIII因子を作り出すことが可能となり、血友病Aモデルマウスの止血異常を改善したという。
今回の研究により発見された血管内皮幹細胞をより詳細に解析することで、今後血友病や虚血性疾患など血管内皮細胞の機能障害が原因で生じる様々な疾患に対する新たな治療法の開発に大きく貢献することが期待されると研究グループは述べている。
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