患者数推定3,000名の希少疾患「HTLV-1関連脊髄症」
日本医療研究開発機構(AMED)は2月8日、神経難病であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)の患者を対象とした抗CCR4抗体「モガムリズマブ」の医師主導治験(第1/2a相試験)を実施し、抗CCR4抗体がHAMの病因となるHTLV-1感染細胞を劇的に減少させる効果を発揮し、脊髄での炎症レベルを改善させることを世界で初めて示したと発表した。この研究は、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センターと先端医療開発学の山野嘉久教授、佐藤知雄准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際医学雑誌「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」にて発表された。
画像はリリースより
HAMは、患者数が全国で推定3,000名の希少疾患。脊髄が次第に傷害されることで、歩行困難、排尿・排便障害、足のしびれや痛みなどの症状が進行する。HAMの原因となるヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、主にCD4陽性T細胞に持続感染するウイルス。HTLV-1は、感染者のごく約0.3%にHAM、約5.0%に成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)などの重篤な病気を引き起こし、HAMの患者がATLを発症するリスクもある。しかし、現時点ではこれら疾患の有効な発症予防薬や治療薬は確立されていない。
ATLへの進展予防効果も示唆
研究グループは、CCR4陽性T細胞はHAMの治療標的になり得ると考え、ヒト化抗CCR4抗体製剤の開発に成功していた国内企業と2007年から共同研究を開始。HAM患者由来の細胞を用いた非臨床試験において、同製剤が抗HTLV-1感染細胞殺傷活性、抗炎症活性を有することを証明していた。これを受けて2013年11月より、既存治療で効果不十分なステロイド維持療法中のHAM患者を対象とした抗CCR4抗体の第1/2a相試験を、医師主導治験として開始した。
その結果、抗CCR4抗体が「HTLV-1感染細胞を標的としてHAM患者脊髄の炎症を改善させる」という全く新しい作用メカニズムを持つHAMの根本的治療薬となる可能性が示され、HAM患者に対する症状改善効果だけでなく、ATLへの進展予防効果も示唆されたという。
現在、多施設共同の検証的試験(第3相)が企業主導で開始されている。将来的には、同薬剤をリハビリテーションと効果的に組み合わせることで、次世代のHAM治療法が確立される可能性も期待される。また、今回の研究によって「HAM患者の脊髄における慢性炎症がHTLV-1感染細胞に起因する」という仮説が、直接証明されたことで、HTLV-1感染細胞をHAMの治療標的とすることの重要性が明確に示された。研究グループは、「HAMの治療薬開発に関する1つの方向性を示した点で、今後のHAMの新薬開発に貢献できるものと考えられる」と述べている。
▼関連リンク
・日本医療研究開発機構 ニュースリリース