きわめて予後不良な多発性骨髄腫
自治医科大学は2月6日、多発性骨髄腫の病状が、感染をきっかけに悪化する新たなメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大幹細胞制御研究部の菊池次郎准教授、黒田芳明助教、小山大輔博士、古川雄祐教授らが、栃木県立がんセンター、東京大学、広島大学と共同で行ったもの。研究成果は、米国がん学会誌「Cancer Research」オンライン版に掲載されている。
血液がんの一種である多発性骨髄腫はきわめて予後不良の疾患。現在は、抗がん剤や骨髄移植などによる治療が行われ、一時的には病状を抑えられるが、多くの患者はやがて再発を経て病状が悪化する。再発が予防できれば、予後が改善できると思われるが、そのきっかけになる機序は未解明であった。
免疫調節薬にCD180の発現抑制効果とLPSの刺激を解除する働きが
今回、研究グループは多発性骨髄腫細胞にToll様受容体(TLR)の一種「CD180」が発現することを発見。TLRは感染時に病原体を認識し、免疫細胞の増殖や活性化を誘導する受容体であることから、細菌の菌体成分であるリポ多糖(LPS)を骨髄腫細胞に加えたところ、増殖が顕著に亢進したという。また、多発性骨髄腫の治療薬の中では、免疫調節薬にCD180発現を抑制する効果とLPSによる刺激を解除する働きがあることが明らかになったとしている。多発性骨髄腫患者においても、感染による気管支炎などをきっかけに病状が悪化する症例があること、免疫調節薬を投与中の患者では、感染が起きても病状が悪化しにくいことが判明したという。
これまでの大規模解析から、骨髄腫患者は健康な人に比べて感染症にかかりやすいこと、感染症にかかった際に死亡率が高まること、免疫調節薬の継続的な服用が予後の改善に有効なことが報告されている。今回の研究により、感染が多発性骨髄腫の病状の悪化に働き、免疫調節薬がその予防を介して予後を改善している機序が解明された。研究グループは、「多発性骨髄腫の予後の改善に結びつく重要な知見であり、多発性骨髄腫患者に対する福音となるもの」と述べている。
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