強心配糖体「ウアバイン」のアグリコン「ウアバゲニン」
東北大学は2月2日、古くから知られる強心配糖体から容易に得られる化合物「ウアバゲニン」が、副作用の少ない新たな医薬資源となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科化学専攻の上田実教授、田村理講師(現・岩手医科大学薬学部准教授)、東京工科大学応用生物学部の岡田麻衣子助教らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
分子内に糖を有する配糖体と呼ばれる化合物は、天然に多く存在する。配糖体は、複雑な化学構造を持つ「アグリコン」に糖分子が結合した構造を持ち、このアグリコンが排泄あるいは貯蔵のために生体内で不活化された化合物と考えられていた。
上田教授らは、強心配糖体ウアバインとそのアグリコンである「ウアバゲニン」に注目。ウアバインはキョウチクトウ科植物に含まれる強心配糖体であり、欧米では古くから医療現場で使われてきた。一方、ウアバインのアグリコンであるウアバゲニンについてはほとんど研究例がなかったという。
脂肪肝だけでなく既存の合成LXRリガンドの副作用も示さず
研究グループは、ウアバゲニンの異常ステロイド骨格に着目。そのステロイドホルモン類似作用を探索したところ、ウアバゲニンはステロイドホルモン受容体と同じ核内受容体に属する肝X受容体(LXR)群に作用することが明らかになった。
LXRは、コレステロール排泄、脂質代謝、グルコース代謝、免疫応答など生体内の恒常性維持を担う核内受容体。近年ではLXRに作用する薬剤が抗がん作用や降圧作用を持つことが明らかになりつつあるため、新たなLXRリガンドの発見は動脈硬化や糖尿病、がんなど、現代社会で罹患率の高い疾患の有用な分子標的薬開発の基盤となることが期待されている。
今回発見されたウアバゲニンは、既知の類似薬物に見られる脂肪肝誘導などの副作用を示さず、既知の合成リガンドより毒性も低いことが確認されたという。また、LXRリガンドは、集合尿細管細胞上の上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の発現を抑制するため、降圧作用が期待される。研究グループは、ウアバゲニンがマウス腎臓の ENaCの発現を抑制することを確認。ウアバゲニンは、脂肪肝だけでなく既存の合成LXRリガンドの副作用も示さず、そのENaC抑制作用から、高血圧治療薬の選択肢を拡げる医薬品シーズとして有望だという。
研究グループは「過去に生物活性を示さないとされた配糖体アグリコンに、意外な生物活性が潜んでいる可能性は少なくなく、天然に多く存在する配糖体のアグリコンが新たな生物活性分子の探索資源として有用であることを指摘できた」と述べている。
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