経験のある医師の施術や判断が必要な経頭蓋磁気刺激法
名古屋工業大学は2月5日、脳の部位ごとに有する機能をピンポイントで推定する技術を開発したと発表した。これは、同大大学院博士前期課程の青沼新大氏、Jose David Gomez Tames特任助教、平田 晃正教授、東京女子医科大学、アールト大学の共同研究グループによるもの。同成果は、Elsevier「NeuroImage」(電子版)に掲載されている。
脳への磁気刺激(経頭蓋磁気刺激法:TMS)は、脳外科手術前診断への応用が期待され、刺激時の生体反応を観測することで、運動野や言語野といった重要機能を有する部位を事前に把握することが可能。この診断を高精度に実現できれば、脳外科手術に要する時間を短縮できるという。
他にもTMSは、運動機能のリハビリテーションや精神疾患の治療などに用いられているが、脳の構造の複雑さにより、コイルから脳内に誘導される電流は均一でなく、実際に刺激している部位がコイルの真下から数cmずれるという事例も報告されている。コイルの位置をナビゲーションし、刺激位置を推定する商用システムも存在するが、その精度については十分わかっておらず、また、誤差を有することも報告されている。そのため、経験のある医師の施術、判断が必要となっている。
脳表に直接電極を当てて確認した位置と高精度で合致
研究グループは、これまでに医用画像(MRI)に基づく情報から、20程度におよぶ組織を識別した微小要素から構成される計算人体モデルを自動生成するアルゴリズムを開発。各組織に異なる電気定数を与えることで、計算機上で人体を電気的に再現する技術を有している。この人体モデルは、1辺が0.5mmの微小立方体から構成されており、高精度な電気生理シミュレーションが可能だという。今回は、同技術と東京女子医科大学で行われた臨床研究を融合し、推定技術を開発したという。
画像はリリースより
まず、臨床研究のデータから体外に配置した磁気刺激装置による多数のランダムな刺激に対して、指の筋電反応の強い刺激サンプルを複数選択。この刺激サンプルごとに対応する脳内誘導電流をシミュレーションにより算出する。次に、その空間分布を重ね合わせる処理を行うことにより、指の筋肉に相当する部位を推定した。この推定領域は、1cm2程度で、脳外科手術中に、脳表に直接電極を当てて脳機能を確認した位置とは5~7mmという高精度で合致。これにより、医師の経験に関係なく、脳のピンポイント機能診断が可能となったとしている。
このシミュレーションを高性能な計算機ワークステーションを用いて実施することで、1サンプルあたり数秒、処理に要する時間は60秒以内での算出が可能であり、開発された技術は臨床現場での応用が期待される。研究グループは、「脳への刺激もランダムで、計算で処理できることにより、機械による診断の自動化などへの展開も期待される」と述べている。
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・名古屋工業大学 プレスリリース