生体内のヘモグロビンから生じる超音波を画像化する技術
京都大学は2月2日、無被ばくで造影剤の使用無しに血管を高精細に画像化できる「光超音波イメージング技術」を用いて、手掌動脈の可視化と血管形状の定量解析に成功したと発表した。この研究は、同大医学研究科の戸井雅和教授、同大学医学部附属病院の松本純明特定助教らの研究グループによるもの。研究成果は、学術誌「Scientific Reports」オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
光超音波イメージング技術は、生体に安全な光を照射し、生体内にある光吸収体(ヘモグロビン)から生じる超音波を受信して画像化する技術。研究グループではこれまでその技術を用いて、乳がんとその腫瘍血管との関係について研究を行ってきた。また血管構造は悪性腫瘍だけではなく、これまで血液がどのようにその内腔を流れてきたかを反映している可能性があり、局所の血管の状態は生活習慣に起因する動脈硬化など全身性の疾患やその兆候を反映している可能性がある。
このような後天性疾患に関連する血管の変化を理解するためには、健常者の血管を解析して、同年齢の患者の血管と比較する必要がある。しかし、これまでの血管イメージング法では、造影剤が必要だったり、被ばくのあるX線を用いたり、高価なMRI検査を受けて画像を取得する必要があった。造影剤が不要で侵襲性のない超音波診断装置のドップラー画像によっても血流を画像化することが可能だが、その解像度には限界があったという。
加齢に伴い動脈の曲率が有意に大きくなることが判明
研究グループは、生体の血管構造解析の第一段階として、手掌の血管に着目し、光超音波イメージング技術を用いて、20~50歳台の健常な男女22名の手掌血管を撮像。動脈が加齢に伴って湾曲する様子を科学的に画像化した。主に解析した血管は、総掌側指動脈(手のひらを縦に走る3本の動脈)と固有掌側指動脈(親指を除く各指の両側8本の動脈)。
新たに開発した血管の半自動抽出(トレーシング)技術で血管走行の曲率を求める手法を開発し、年齢階層ごとにグループ分けして統計解析を行った結果、加齢に伴って曲率が有意に大きくなることが判明。また、現段階では症例数が少なく統計解析には至らないが、閉経期以降の女性に特異な曲率を示すデータが得られており、女性ホルモンが血管構造に影響していることを示唆するデータではないかと推察している。
研究グループは、「光超音波イメージング技術は生体血管解析における有力なツールになり、さまざまな疾患の病態解析、治療効果の分析、さらに新薬開発などにも寄与しうる画像モダリティになることが期待される」と述べており、今後はデータを蓄積し、データの信頼性を高めるとともに、健常血管、病的血管の鑑別法の検討や新しい診断手法の開発などを行う予定としている。
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・京都大学 研究成果