ヒトの生理機能や疾患にさまざまな影響を与える腸内細菌
熊本大学は1月31日、腸内細菌によって産生される二次胆汁酸が血糖値と血中の脂質濃度に関与していることと、その分子メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部微生物薬学分野の大槻純男教授と久野琢矢博士らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、腸内細菌は宿主であるヒトの生理機能や疾患にさまざまな影響を与えることで注目されている。肥満のヒトでは腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸が脂肪酸受容体を刺激することで生体のエネルギー消費の上昇および脂肪蓄積の抑制を引き起こす可能性などが報告されており、その他にも、2型糖尿病などの生活習慣病、自閉症などの神経疾患、大腸がんなどの腸疾患の発症とも関連があることが明らかになっている。
研究グループによるものも含め、これまで研究成果からは、抗菌薬投与による腸内の細菌集団の質的・量的なバランスの破綻(dysbiosis)は糖および脂質の代謝を担う組織である肝臓のタンパク質発現量に影響を与えることが明らかになっている。
抗菌薬の5日間投与で肝臓の二次胆汁酸濃度が減少
今回、研究グループは、抗菌薬の5日間投与によってdysbiosisモデルマウスを作成し、血糖値および血中の脂質成分トリグリセリド濃度を抗菌薬非投与マウスと比較したところ、それぞれ64%および43%に減少していたという。また、二次胆汁酸を産生する腸内細菌が減少しており、肝臓の二次胆汁酸(リトコール酸、デオキシコール酸)濃度がそれぞれ抗菌薬非投与マウスの20%および0.6%に減少。さらに、抗菌薬投与と同時に二次胆汁酸を補充することによって、血糖値および血中のトリグリセリド濃度の低下が回復したとしている。
次に、腸内細菌が産生する二次胆汁酸がどのように肝臓の糖と脂質代謝に影響を与えるかを、定量プロテオミクスによって解析。その結果、dysbiosisモデルマウスの肝臓では、グリコーゲン代謝およびコレステロール・胆汁酸の生合成に関わるタンパク質の発現量が変化しており、その変化が二次胆汁酸の補充によって回復することを示したという。
今回の研究成果は、二次胆汁酸とそれを産生する腸内細菌が生体の糖・脂質濃度に関与している可能性を示している。研究グループは、「今後、二次胆汁酸を産生する細菌が糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患の予防もしくは治療の標的となることが期待される」と述べている。
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・熊本大学 プレスリリース