求められる生体内ビタミンCの可視化技術
東京大学 生産技術研究所は1月24日、高感度かつ生体環境に適した選択性を示すビタミンC検出用蛍光プローブを新規に開発し、静脈から投与された、マウス中のビタミンCをイメージングすることに成功したと発表した。この研究は、同研究所の石井和之教授、横井孝紀大学院生(研究当時)、片山化学工業株式会社の大谷敬亨博士の研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
必須栄養素であるビタミンC(アスコルビン酸)は、生体内で抗酸化作用を示す。また、薬理学的濃度に達するとがん細胞を選択的に殺すことが報告されて以降、新しいがん治療法の確立をめざした研究が進められている。この治療法では、血漿中のビタミンC濃度を高めることが重要なため、経口投与ではなく静脈に点滴投与するがん治療法が提案されており、成功事例も報告されている。しかし、静脈投与されたビタミンCが、「どの臓器に分布しやすく、抗がん作用を与えるか」については未解明であり、治療法の確立に向け、生体内のビタミンCの可視化技術が求められていた。
臓、心臓、肺および胆嚢周囲の蛍光が増大
今回、研究グループは、生体内で長時間活性を維持し、高感度かつ高い選択性でビタミンCを検出する蛍光プローブを新たに開発。この蛍光プローブは、赤色蛍光色素分子フタロシアニンと安定有機ラジカル分子を結合させた分子システムで、ラジカル分子がビタミンCと反応後、フタロシアニンが赤色蛍光を示すことで、ビタミンCを検出できるという。さらに、血清アルブミンという血液中で最も豊富なタンパク質の二量体で包むことにより、生体内におけるビタミンCとの反応がさらに効率化し、選択性も向上したという。
今回開発した蛍光プローブを、静脈からマウスに注射した後、ビタミンCを静脈から注射すると、数分以内に肝臓、心臓、肺および胆嚢周囲の蛍光が増大したという。これより、静脈から投与したビタミンCがこれらの臓器に効率良く輸送されたことをリアルタイムで観測することに初めて成功したとしている。
今回開発したアルブミン二量体との複合化法について、研究グループは「生体内で失われやすい蛍光プローブの活性を維持する、新たな分子設計指針となり得る」と述べている。
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