岐阜医療科学大学は岐阜県関市のキャンパスで長年、看護師や臨床検査技師、診療放射線技師ら医療系人材の育成に取り組んできた。これまでの経験やノウハウを基盤にすれば、より実践的な教育・研究を展開する薬学部を創設できると判断した。薬学部新設は学内他学部への相乗効果も見込める。ブランド力が高まり、大学の発展につながるとして新設を決断した。
薬学部は可児市の新キャンパスに開設する計画だ。この場所にあった名城大学都市情報学部が2017年4月に移転。それに伴い、名城大学と可児市から一部は無償で土地や校舎を借り受けて、新たなキャンパスを19年4月に設置する。3者間の契約は今月上旬に済んだ。可児市からは助成金が拠出される。
既存の校舎を改修して薬学部の教育・研究に活用するほか、3階建ての薬学部実験実習棟を新設する。1階には模擬薬局や模擬病室、無菌注射室、調剤実習室、地域包括支援室などを設ける。2階や3階は実習室、実験室、研究室として利用する。新設する実験実習棟は2018年3月に着工し、19年3月までの完成を予定している。
可児市の新キャンパスには、保健科学部内の学科から18年度に独立する看護学部や助産学専攻科を移転。19年度以降は、2カ所のキャンパスで3学部4学科、1専攻科と大学院を展開する体制になる見込みだ。
薬学部設置準備室長の山岡一清副学長は「本学が長年取り組んできた医療系人材教育には定評があり、教育面の方向性には問題はないが、関市のキャンパスには交通の便が良くないという課題があった。交通の便が良い場所で新たな領域をプラスできれば大学の発展が見込まれる。医療系教育を拡充するなら薬学部新設がふさわしい。約5年前から設置構想を抱いていた」と振り返る。ゼロから立ち上げるには多額の資金や年月を要するため、既存設備を活用できる場所を探していたところ、名城大学都市情報学部の移転が決まり、構想が具体化したという。
03年以降薬学部の新設が相次いでいる。定員割れを起こす薬学部も出現し、これ以上は不要との声は少なくない。山岡氏も「なぜいまさらやるんだと、私たちがやろうとすることにも批判は多かった」と語る。しかし、岐阜県北部などを中心に薬剤師不足はまだ続いている。近隣の高校生を対象に調査したところ、薬学部の進学希望者は多かった。さらに関東や関西に比べると東海地区では薬学部はそれほど密集していない。これらの背景もあり新設に踏み切った。
薬学部の設置に必要な理念やカリキュラム、建物・設備、教員、資金などの概要はほぼ固まっている。教員は専任35人、助手4人でスタートする予定だ。2018年3月に文科省に設置を申請し、5月には指導を受けてさらに整備を進める。要件を満たしていれば、早くて8月にも設置が承認される見通しだ。
岐阜医療科学大学顧問として薬学部新設計画に関わってきた土屋照雄氏(岐阜薬科大学客員教授)は、薬学部として承認された暁には、岐阜県特有の山間僻地など各地で「チーム医療の一員として地域医療に貢献できる薬剤師を育成したい」と強調する。また、「医療費削減に貢献するセルフメディケーションや疾病予防など、薬剤師に対する社会のニーズは変化している。それに対応できる教育をしていきたい」と語る。
これまで保健科学部3学科が共同で1、4年次などに実践してきたチーム医療教育に薬学部の学生を加え、多職種連携の必要性を学生の時から実感してもらう予定だ。さらに「実践的に検査値を読める薬剤師の育成に取り組むほか、セルフメディケーション論、食品科学と健康、サプリメント概論などの科目を設ける考えがある」と保健科学部教授・学生部長の石黒啓司氏は話している。