さまざまながん種の中で生存率が最も低い膵がん
慶應義塾大学は1月16日、ヒト由来の膵がん細胞を体外で効率的に増殖させることに成功し、その解析から、膵がんが周囲の環境から与えられた細胞増殖物質に依存することなく増殖可能となり悪性化していくことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学(消化器)教室の佐藤俊朗准教授ら研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Cell Stem Cell」のオンライン版で公開された。
画像はリリースより
膵がんの生存率はさまざまながん種の中で最も低く、2008年に診断された膵がん患者の5年相対生存率は10%に達していない。これは、膵がんが無症状のうちに進行し、手術困難な状態で発見される例が多いことや、抗がん剤治療の効果が長く続かないことによると考えられる。
一方、近年、膵がんの遺伝子情報の詳細な分析から、膵がん患者を生存期間によって分類できることが明らかになってきた。しかし、その原因はわかっておらず、それを利用した治療への応用もなされていない。
細胞増殖物質WntとRspondinが膵がんの悪性化に関係
研究グループは、先行研究で開発したオルガノイド培養技術をヒトの膵がん細胞の体外培養に応用し、39例のヒト由来の膵がん細胞を体外で効率的に増殖させることに成功。細胞増殖物質である「Wnt」と「Rspondin」が、膵がんの悪性化に深く関わっていることを発見したという。
さらに、膵がんはこれらの物質を膵がん自身の増殖に必要とするかどうかで、Wnt非分泌型、Wnt分泌型、Wnt/Rspo非依存型に分類できることが判明。Wnt非分泌型の膵がんオルガノイドに対して、GATA6という遺伝子の発現を低下させるとWnt分泌型に変化し、逆に、Wnt分泌型の膵がんオルガノイドに対して、GATA6の発現を上昇させるとWnt非分泌型に変化したという。これにより、膵がんのタイプの違いは、GATA6の発現の量に連動して定められ、GATA6の発現低下に伴って悪性化していくこともわかったとしている。
また、遺伝子改変技術CRISPR/Cas9システムを用いて人工膵がんを作製。この人工膵がんは、周囲にWntが存在する環境ではWnt非分泌型でありながら、Wntが存在しなくなると自らWntを分泌するように変化するという現象がみられたという。このことから、膵がんは周囲の環境に適応して、遺伝子発現プログラムを変化させながら悪性化していく可能性が示唆されたとしている。
研究グループは、「今後はGATA6によって、具体的にどのようにして膵がんの遺伝子発現プログラムが調節されているのかを解明することで、膵がんに対する新たな治療戦略を立てる上での突破口となることが期待される」と述べている。
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