2025年にピークを迎えると言われている中皮腫患者数
名古屋大学は1月12日、瀉血療法によって悪性中皮腫の発がんが予防できる可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、大原悠紀大学院生らの研究チームによるもの。研究成果は、日本癌学会の雑誌「Cancer Science」オンライン版に掲載されている。
悪性中皮腫(中皮腫)は、そのほとんどがアスベスト曝露により発症する悪性度の高い腫瘍。早期診断が難しいため、しばしば、進行した状態で発見されることがある。日本におけるアスベストによる中皮腫患者数は2025年にピークを迎えると言われており、過去のアスベスト曝露者に対する予防法の開発は喫緊の課題だ。
アスベストによる中皮腫の発がんメカニズムのひとつとして、アスベストがヘモグロビン、ヒストンなど生体内の特定分子や生体外からの有害分子を吸着し、発がんに寄与する分子吸着説が知られている。アスベストに含まれる鉄や、アスベストが吸着したヘモグロビン鉄による局所鉄過剰は、活性酸素を生成するフェントン反応という化学反応を触媒するため、中皮腫の発生に中心的な役割を果たしていると考えられている。この局所鉄過剰を軽減する方法として、研究チームは、鉄キレート剤や瀉血療法を想定。今回の前臨床試験では瀉血療法を行ったという。
瀉血を行った中皮腫モデルラットで生存期間の延長を確認
今回の試験では、ラットに総計5mg のアスベスト(クロシドライト)を腹腔内注射し、これを瀉血群と非瀉血群(NT)に分け、瀉血群では10週齢から60週齢において、1回当たり6-8 ml/kgの瀉血を月4回(Phleb-4)実施。ラットの体重を毎週測定し、120週齢まで観察した。この瀉血のデザインは、現在、ヒトでも実施可能な瀉血量を、さまざまな要素を考慮してラットにあてはめ計算したものだという。
画像はリリースより
その結果、NT群と比較して、Phleb-4群ではヘマトクリット値が有意に低下し、生存期間が有意に延長したという。また、解剖時、Phleb-4群ではNT群に比べ腫瘍重量、腹水重量が減少。組織学的には、Phleb-4群での中皮腫の悪性度が低下していたという。これらの結果から、瀉血によって赤血球に含まれる鉄が除去され、発がんに関与する鉄過剰状態が軽減されたことが示唆されたとしている。
瀉血療法は慢性C型肝炎や真性多血症などにおいて保険適応となっている安全で副作用の少ない治療法だ。研究チームは、「まず、アスベスト曝露経験のある高リスク者を対象とした臨床的介入試験を実施することが期待される」と述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース