赤痢アメーバとモシュコフスキーアメーバを研究
群馬大学は1月11日、アメーバによって下痢症が引き起こされる仕組みを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の下川周子助教と、長崎大学熱帯医学研究所の濱野真二郎教授らのグループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Journal of Immunology」オンライン版に掲載されている。
大腸に寄生する寄生虫による赤痢アメーバは、発展途上国における小児下痢症の主な原因のひとつ。国立感染症研究所の報告によると、日本でもエイズ患者の増加に伴い、赤痢アメーバの国内感染例は年間 1,000例に届く勢いだという。しかし、アメーバと下痢症との関連や、その疾患メカニズムについては未解明だった。
下川助教と濱野教授ら研究グループは、これまでに腸アメーバ症の動物モデルを世界で初めて確立。さらに、モシュコフスキーアメーバという赤痢アメーバによく似ているアメーバが、赤痢アメーバ同様に激しい下痢の症状を起こすことを解明し、赤痢アメーバを攻撃する免疫が、モシュコフスキーアメーバにはほとんど効果がないことを明らかにしていた。
IFN-γが腸管細胞の細胞死を誘導
研究グループは今回、赤痢アメーバとモシュコフスキーアメーバのマウスでの症状の違いに着目。赤痢アメーバ感染では症状は穏やかで下痢も見られなかったが、モシュコフスキーアメーバ感染では体重減少や下痢などの激しい症状を引き起こしたという。また、赤痢アメーバが感染しても大腸の粘膜に変化は見らないが、モシュコフスキーアメーバが感染すると、多くの細胞が死に、炎症が起こっていることがわかったという。
これらのマウスの腸管では、炎症を引き起こす物質であるIFN-γが症状の激しい時期に大量に出ていることが判明。一方で、赤痢アメーバ感染マウスではIFN-γは増加しないことから、モシュコフスキーアメーバ感染では、IFN-γは腸管で炎症を引き起こし、大量の細胞死を伴う激しい下痢症状の原因になると想定。IFN-γ欠損マウスにモシュコフスキーアメーバを感染させたところ、腸管の大量の細胞死や下痢の症状、体重減少が全く見られなくなることがわかったとしている。
画像はリリースより
次に、IFN-γがどのようにして症状を起こすのかを、腸管の細胞死に着目して調べた。腸管の免疫細胞は細胞表面に細胞死を起こすための目印「RAE-1」に結合して細胞死を起こせる「NKG2D」という分子を持っている。モシュコフスキーアメーバの感染では、この細胞死のメカニズムが盛んに起こっており、RAE-1やNKG2Dの発現を増強することが判明。また、IFN-γ欠損マウスでは、モシュコフスキーアメーバを感染させてもこれらの分子の増加は見られなかったという。
これらの結果から、IFN-γが腸管細胞の細胞死を誘導することで下痢が起こることが世界で初めて明らかになった。今後、IFN-γの作用を抑えることで、赤痢アメーバ症だけでなく腸管病原体による下痢症の治療に貢献できることが期待される。研究グループは、「潰瘍性大腸炎やクローン病など原因不明の炎症性腸疾患の治療にも応用できる可能性が高いと考えている」と述べている。
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