直接型トロンビン阻害薬と直接型Xa因子阻害薬
新潟大学は1月9日、作用時間が短いはずの新規経口抗凝固薬が、作用時間の長い既存の脳梗塞予防薬ワルファリンと同等かそれ以上に脳梗塞の予防効果が高いことを裏付ける作用メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科の和泉大輔助教、南野徹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American College of Cardiology」に掲載されている。
画像はリリースより
心房細動が原因で起こる脳梗塞は、脳梗塞全体の約30%を占め、他の脳梗塞に比べ重症化しやすく、寝たきりなどの原因となっている。近年その予防のために、直接型トロンビン阻害薬のダビガトラン、直接型Xa因子阻害薬のリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンといった複数の新規経口抗凝固薬が開発された。これまでの臨床試験でこれらの新規経口抗凝固薬は、既存の脳梗塞予防薬のワルファリンと比べて、同等かそれ以上の脳梗塞予防効果を持ち、重篤な出血性副作用を減少させることが示されている。
新規経口抗凝固薬は、いずれも効果が消退するまでの時間が12時間程度と、ワルファリンに比べて短いことを特徴としている。新規経口抗凝固薬は、通常1日に1回、あるいは2回内服する。そのため、薬効が大幅に減弱する時間帯が存在することとなるが、その時に脳梗塞が起きやすくなるかどうかは不明だった。また、新規経口抗凝固薬が、既存治療に比べ脳出血などの重篤な副作用を減少させるメカニズムもわかっていなかった。
新規経口抗凝固薬の種類により血管損傷後の出血程度に違い
研究グループは、さまざまな脳梗塞予防薬治療における血管損傷時の生体反応と新規経口抗凝固薬の血中濃度低下時の脳梗塞予防効果の有無を明らかにするため臨床研究を実施。臨床試験は、新潟大学医歯学総合病院においてカテーテルアブレーション治療が行われた症例のうち、新規経口抗凝固薬のダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン内服患者、ワルファリン内服患者、脳梗塞予防薬を内服していない患者(対照群)の間で行われた。
試験の結果、新規経口抗凝固薬服用例ではワルファリンと比べて血管損傷時に正常な止血反応が保たれていること、新規経口抗凝固薬を定期的に内服した場合はその血中濃度に関わらず凝固反応が同等に抑制され、その作用はワルファリンに比べて中等度の抑制であることを突き止めたという。この結果は、これまで不明だった新規経口抗凝固薬の出血性副作用を減らすメカニズムと考えられるとしている。
さらに、血管損傷時の止血反応の程度は、ダビガトラン服用例が他の新規経口抗凝固薬やワルファリン服用例より大きいことが判明した。これは、新規経口抗凝固薬の種類により血管損傷後の出血の程度に違いがあることを示唆しているという。
ワルファリンは、凝固反応を妨げる作用の他に、生理的凝固阻止因子と呼ばれる過剰な血液凝固を予防する酵素のプロテインCとプロテインSを抑制することで、逆に脳梗塞の発症を増やす可能性があることが知られている。同研究では、新規経口抗凝固薬は生理的凝固阻止因子を維持または増加させることで、脳梗塞の予防に関与している可能性があることもわかったという。ダビガトランには、プロテインCとプロテインSを増加させる作用があることが明らかになった。アピキサバンには、生理的凝固阻止因子のアンチトロンビンを増加させる作用がある可能性が見出されたという。また、新規経口抗凝固薬治療では、血管損傷時の凝固反応が起こった際に、これらの生理的凝固阻止因子が作用し、過剰な凝固が抑制されている可能性も見出されたとしている。
今回の研究結果は、新規経口抗凝固薬に血液凝固を抑制する以外の血栓症予防効果がある可能性を示すものだという。このことが明らかになれば、血栓症予防だけでなく動脈硬化などの他の病気についての新たな治療法の開発に役立つと考えられる、と研究グループは述べている。
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・新潟大学 研究成果