ある種の遺伝病やがん細胞が持つ環状染色体
広島大学は1月4日、酵母を用いた研究により、染色体パッセンジャー複合体ががん細胞に関連する環状染色体を持つ細胞の維持に必要であることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院先端物質科学研究科の上野勝准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌 「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
ヒトや酵母などの染色体は線状だが、ある種の遺伝病やがん細胞では環状染色体を持っている。環状染色体は線状染色体に比べて不安定であることがわかっていたが、環状染色体の維持に必要な因子についてはほとんど未解明だった。
この環状染色体を持って生まれた場合、環状染色体が不安定なために染色体が変化しやすく、がんになるリスクが上がる可能性がある。そのため、環状染色体を安定に維持する方法が見つかれば、このような遺伝病のがんのリスクを軽減できる可能性があると考えられていた。また、環状染色体の維持に必要な因子は、環状染色体を持つがんの治療の分子標的となることが期待でき、抗がん剤の開発の道が開けると期待される。
染色体分配時に働く染色体パッセンジャー複合体
研究グループは今回、分裂酵母を用いて環状染色体の維持に関与する新しい因子の探索を実施した。その結果、染色体分配の時に働くことがわかっていた染色体パッセンジャー複合体が、環状染色体を持つ細胞の生存に必要であることを発見。さらに、温度感受性変異株を用いて染色体パッセンジャー複合体がどのように環状染色体の維持に関与しているのかを調べたところ、染色体パッセンジャー複合体の機能が少し低下した細胞では、環状染色体の染色体分配が正常に行われないことが判明したという。これらの結果から、分裂酵母の染色体パッセンジャー複合体は環状染色体の維持に必要であるとの結論に至ったとしている。
酵母とヒトでは染色体維持の仕組みの基本的な部分は共通している。染色体パッセンジャー複合体も酵母からヒトまで保存されているが今後、ヒトの染色体パッセンジャー複合体も環状染色体の維持に関与するかを調べる必要がある。研究グループは「もしヒトの染色体パッセンジャー複合体が、環状染色体の維持に関与することがわかれば、染色体パッセンジャー複合体が、環状染色体を持つがんの治療の分子標的となることが期待できる」と述べている。
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・広島大学 プレスリリース