「身体接触をともないながら音声を聞く」経験の影響を検討
京都大学は2017年12月27日、大人と身体接触を介した(介さない)関わりを行った場合の生後7か月児の脳活動を計測し、他者に身体を触れられる経験が乳児の脳活動に影響を与えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大教育学研究科の明和政子教授、田中友香理研修員らの研究グループによるもの。研究成果は「Developmental Cognitive Neuroscience」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
乳児は、日常的な他者との関わりの中で、大人から見つめられ、身体に触れられ、同時に話しかけられる。これほど多様な身体感覚を介して他個体と関わる動物はヒトだけであり、こうした大人からの積極的な関わりは、子どもの学習の「足場づくり」となると考えられている。しかし、他者との相互作用において「触れられる」という触覚経験が、乳児の脳の活動にどのような影響を与えるかについては、不明な点が多かった。
そこで研究グループは、大人と乳児が遊ぶ場面での「身体接触(触覚)」と「音声(聴覚)」に着目。「身体接触をともないながら音声を聞く」経験が、乳児の脳活動にどのような影響をもたらすかを実証的に検討したという。
乳児の脳波を計測、事象関連電位と周波数活動を解析
今回の調査には、生後7か月児28名が参加。まず、成人の調査者と乳児が「くすぐり」で遊び(経験フェーズ)、その際、乳児は、(1)触覚-聴覚経験条件:乳児は他者に身体に直接触れられながら新奇単語(例:とぴとぴ)を5回聞く、(2)非触覚-聴覚経験条件:乳児は他者から直接身体に触れられることなく、(1)とは異なる新奇単語(例:べけべけ)を5回聞く、という2つの条件下で、単語を繰り返し聞く経験をした。(1)(2)は、ひとりの乳児に交互に行われ、経験フェーズが終了してから、乳児は経験フェーズで学習した単語を、スピーカーを通して繰り返し聞いた(実験フェーズ)。その時の乳児の脳波を計測し、事象関連電位(ERP)と周波数活動を解析したという。
その結果、「非触覚-聴覚経験条件」で学習した単語に比べ、「触覚-聴覚経験条件」で学習した単語を聞いた時、左側頭領域でより強いERPを示し、「触覚-聴覚経験条件」で学習した単語を聞いた時に左側頭のβ周波数、前頭領域のθ周波数でより強い活動を示した。これらの活動はそれぞれ、複数感覚統合、社会的刺激に対する予期を反映するものだという。また、経験フェーズでくすぐりに対してよく笑った乳児ほど、頭頂のERPの活動がより大きかったという。
この研究成果は、他者から身体に触れられながら話しかけられる経験が、学習や予期に関わる乳児の脳活動を促進する可能性を示している。研究グループは、「発達初期のヒトの脳は、他者との身体を触れ合う関わりを通して、新しいことを効率的に学習できるしくみになっていると考えられる」と述べている。
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・京都大学 研究成果