半導体微細加工技術と無細胞合成技術とを融合
東北大学は12月25日、半導体微細加工技術と無細胞合成技術とを融合することにより、ヒトの心筋に存在するhERGチャネルという膜タンパク質の薬物感受性を記録することに成功したと発表した。この研究は、同大電気通信研究所の平野愛弓教授、但木大介助教、東北福祉大学感性福祉研究所の庭野道夫教授、埼玉大学理工学研究科の戸澤譲教授などからなる研究チームによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの体を構成する細胞は脂質二分子膜と呼ばれる極めて薄い膜で覆われている。この膜には、種々の膜タンパク質が埋め込まれており、その一種であるイオンチャネルタンパク質は、細胞膜の内側と外側との間にイオンの通り道(チャネル)を形成する機能を持っている。
イオンチャネルタンパク質に適切に作用する薬剤は、薬として使うことができるが、薬剤が予期せずイオンチャネルタンパク質を抑制してしまう場合は重篤な副作用を引き起こす。そのため、薬剤による効果と副作用とを効率よく調べるためのスクリーニング系の開発が強く望まれている。
薬物反応性を1分子レベルで記録
東北大学の平野教授らのグループは、これまでも脂質二分子膜を人工的に形成し、そこにイオンチャネルタンパク質を埋め込む技術の開発に取り組んできた。しかし、脂質二分子膜は僅かな外力によっても壊れやすく、また、その保持体となる半導体チップの作製も極めて困難だった。そこで今回は、半導体微細加工技術を活用して高精度な保持体作製プロセスを構築。耐久性に優れた脂質二分子膜の高確率に形成することを可能にしたという。
一方、埼玉大学の戸澤教授のグループは、小麦胚芽の抽出液を用いることで、さまざまな薬と副作用的に反応することが問題となっている心筋のhERG チャネルタンパク質を、細胞を用いることなく大量に合成することに成功。この2つの研究成果を組み合わせ、無細胞合成したhERGチャネルタンパク質を上記の安定化脂質二分子膜中に埋め込み、その薬物反応性を1分子レベルで記録することに世界で初めて成功したという。
hERGチャネルタンパク質は、その遺伝子型と薬物副作用との関連性も示唆されており、今後は個別化医療を指向した薬物スクリーニングが加速すると期待される、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース