微弱な電流を頭皮上から当てるニューロモデュレーション
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は12月26日、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が、統合失調症患者の日常生活技能や認知機能を改善する可能性を初めて見出したと発表した。この研究は、NCNPトランスレーショナル・メディカルセンターの住吉太幹情報管理解析部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
統合失調症は一般人口の約1%が罹患する原因不明の精神疾患。主な症状として、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情の平板化などの陰性症状、そして記憶、注意力などの認知機能の障害が挙げられる。認知機能に依存し、より上位の機能レベルに位置する金銭管理やコミュニケーション力など日常生活技能の改善は、患者の社会復帰に直結するため、より効果的な治療法の開発が求められている。
tDCSは、1-2 mA程度の微弱な電流を頭皮上から当てる方式のニューロモデュレーション。頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に微弱な電流を流すことで、脳の神経活動を修飾する。麻酔の必要がなく、副作用のリスクが小さいなどの利点がある。これまで、認知機能や精神病症状の一部におけるtDCSの効果は示されてきたが、日常生活技能への効果の報告はなかった。
日常生活技能、認知機能、精神病症状、抑うつなどを改善
研究グループは、統合失調症患者28名(女性12名、男性16名)に対し、tDCSを1回20分、1日2回、5日間施行。電流が流れ込むアノード電極を背外側前頭前野に、電流が流れ出すカソード電極を右眼窩上に配置して刺激を行った。
その結果、患者の日常生活技能簡易評価尺度(UPSA-B)の総合点(平均+標準偏差)は、tDCS開始前の68.4±14.8から治療1か月後には79.0±15.5と、有意に改善。同尺度の下位項目である金銭管理とコミュニケーション力の得点も、それぞれ有意に改善した。また、認知機能評価尺度(BACS)、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、うつ病評価尺度(CDSS)で測定される認知機能、精神病症状、うつ症状にも有意な改善が見られたという。
今回の研究結果からtDCSが統合失調症の日常生活技能を改善し、社会復帰に役立つ可能性が示唆された。現在、この研究成果にもとづく、偽刺激とのランダム化無作為比較試験が行われている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース