脳の視交叉上核や副腎皮質などで発現するPeriod
科学技術振興機構(JST)は12月21日、体内時間を生み出す時計遺伝子Periodが、肝細胞の分裂と増殖に必要であり、この遺伝子がないと増殖シグナルErk1/2が低下し細胞質分裂が失敗、核が大きな巨大細胞となることを明らかにしたと発表した。この研究は、京都大学の趙需文研究員、土居雅夫准教授、フスタ・ジャン・ミッシェル講師、岡村均教授ら、国立国際医療研究センター分子代謝制御研究部の松本道宏部長、大津市民病院病理部の浜田新七部長の研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
Periodは、体内時計の中枢である脳の視交叉上核やストレスに反応するホルモンのコルチゾールを分泌する副腎皮質でリズミカルに発現しているだけでなく、皮膚や消化管などでも著明なリズムを発現することがわかっている。時計遺伝子は糖や脂肪などの基本代謝を動的に管理することで生命機構に根源的な時間秩序を与えていることが明らかになってきたが、全身の代謝の中心的な臓器である肝臓でどのような役割を果たしているのかはよくわかっていなかった。
細胞分裂の開始~終了まで体内時計の強い影響下にあることを示唆
研究グループは今回、時計遺伝子が欠損したマウスを作成し、マウス全身の臓器の組織を解析。その結果、肝臓の構成単位である肝小葉の中心静脈付近にある肝細胞の多倍体化が著しく進んでいることが判明したという。
また、肝細胞の増殖をつかさどるインスリンを介する細胞内シグナル伝達系を調べたところ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼErk1/2の活性が顕著に減少していた。Erk1/2は、細胞が娘細胞と別れる時の分岐点である中央体に発現するが、通常のマウスではErk1/2を不活性化するMkp1が時計遺伝子により抑制されている。しかし今回の実験マウスでは時計遺伝子がないためMkp1が抑制されず、Erk1/2活性が低下。このことから娘細胞が親細胞と別れられずに再融合し、多倍体化した核の大きな巨大細胞となったという。
研究グループは、2003年に時計遺伝子が細胞分裂開始の準備が整うまで発現するタンパク質Wee1の発現を制御することを明らかにしている。今回の研究では、細胞分裂の最後の段階である細胞質分裂も時計遺伝子が制御していることが判明した。これにより、細胞の分裂は開始から終了まで体内時計の強い影響下にあることが示唆されたとしている。
日本では食生活の欧米化と運動不足に伴い肥満者が増加し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が増加している。肝細胞の多倍体化機構が明らかになることで、今後はこのような生活習慣に起因する肝疾患の予防や治療につながると期待される、研究グループは述べている。
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・科学技術振興機構(JST) プレスリリース