■汎用性で業界標準目指す
山口大学病院薬剤部と大手製薬企業のファイザーは、添付文書とインタビューフォーム、医薬品リスク管理計画(RMP)の医薬品情報を一括して短時間で検索できる「医薬品情報提供システム」(仮称)の試験的開発に成功した。クラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービスの技術を採用し、キーワード検索するだけで複数の資料から欲しい情報をすぐに入手できる仕組みを構築。医療従事者が資料を探す手間が大幅に減ると共に、製薬企業が印刷物を作成する業務負担も軽減するメリットがある。システムは安価で汎用性を持たせていることから、将来的には業界標準への展開を目指す。
医療現場では、製薬企業が作成した添付文書、インタビューフォーム、RMP、使用上の注意改訂、患者向け医薬品ガイドなど、様々な資材が配布され情報提供が行われている。ただ、薬剤師など医療従事者が必要な医薬品の情報を知りたい場合、それぞれの資料を開いて該当項目を探す手間がかかり、欲しい情報をすぐに入手できない課題があった。製薬企業も工夫して作った資材が有効活用されていないとの問題意識を持っていた。
こうした問題を解決するため、山口大病院薬剤部とファイザーは医療従事者がピンポイントで迅速に必要な医薬品情報にたどり着ける情報システムの試験開発に着手した。アマゾンウェブサービスのクラウド技術を用い、IT企業のシーエーシーと共同で2017年7月から9月にかけてシステムの試作品を構築。山口大病院で実際の運用を検証した。
同システムは、サイト上で検索したい医薬品名を選び、「腎機能障害」などのキーワードを入力すると添付文書1件、インタビューフォーム2件などと検索結果が表示されるもの。画面上の「PDFダウンロード」の部分をクリックすると、キーワードが黄色でハイライトされ、すぐにPDFファイル上の該当箇所を確認できることが特徴だ。有効性や安全性などの項目検索、患者向け医薬品ガイドなどの資材検索もできる。
システムの検証は、同社の抗うつ薬「イフェクサーSR」など4製品について、添付文書、インタビューフォーム、RMP、使用上の注意改訂、患者向け医薬品ガイドなど七つの資料を検索する試験運用を2段階で行い、技術的に評価した。
その結果、キーワード検索により、基本情報である添付文書、インタビューフォーム、RMPの資料、患者向け資材を短時間で漏れなく検索、参照することができた。また、製薬企業はこれらの資料をドロップするだけでファイルのアップロードができ、低い作業負荷で資料を管理できることも分かった。
ファイザー医薬品安全性統括部製品安全性監視部長の慶徳一浩氏は、「添付文書、インタビューフォーム、RMPの3種類は、比較的資料のフォーマットや用語の使い方、並び順が均一になっているため、企業としてはアップロードしやすい」と実感を話す。製薬企業は資料をシステムにアップロードするだけで済み、業務負担の軽減につながる一方、医療従事者も欲しい医薬品情報や患者向け資材をすぐに入手できるメリットがある。
特に病院薬剤部では、医師などからの問い合わせに対し、薬剤師が複数の資料から欲しい医薬品情報をすぐに探せるメリットは大きく、病棟業務でも患者向け資材を用いてベッドサイドで患者にiPadなどの画面を見せながら服用薬の説明をしやすくなるという。
山口大病院薬剤部長の古川裕之氏は、「多忙な時に何ページもある添付文書を読み、欲しい情報を探すのは大変で、副作用など重要な部分を読み落としてしまう危険性もある」と一括検索の重要性を強調する。
山口大病院とファイザーは、今回の検証でシステムの基本的な仕組みは構築できたと判断。今後、本格稼働を開始したい考えだ。将来的には、音声入力による検索機能の追加や検索頻度の高い用語の表示など、さらなる新技術の実現可能性を追求し、システムの利便性を高めることで業界標準への発展を目指す。