確定診断には経口抗原負荷試験が必要な食物アレルギー
東京大学は12月18日、食物アレルギーの尿中バイオマーカーとなる脂質分子(PGDM)を発見したと発表した。この研究は、同大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と前田真吾助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
食物アレルギーは小児での発症が多く、かゆみやじんましん、おう吐、下痢などの症状の他、最悪の場合ショックを起こして死に至るケースもある。日本で約120万人の患者がいるとされ、その数は上昇傾向にある。
食物アレルギーの検査としては、血中抗体(IgE)濃度の測定が広く知られているが、血中の抗体濃度が症状の発現と相関しないケースもある。そのため、食物アレルギーの確定診断には、医師が患者に抗原となる食べ物を実際に食べさせて症状が出るのを確認する「経口抗原負荷試験」を行うことが必要だ。しかし、この診断方法は設備の整った施設で、知識・経験ともにある医師が注意深く行う必要がある。また、患者とその家族にかかる時間的・金銭的な負担も大きいため、より簡単かつ客観的な診断方法の開発が求められている。
食物アレルギー患者の診段結果でも高いPGDM濃度を確認
研究グループは、質量分析装置を用いて、食物アレルギーを発症させたマウスの尿の中に、症状の程度に比例して排泄されるPGDMを発見した。食物アレルギーと同様の症状が出て判別しづらい、炎症性の腸炎や喘息、アトピー性皮膚炎を発症したマウスの尿では、この物質の濃度が変化しなかったという。
また、この脂質がどこで産生されて尿に排泄されているかを探索した結果、食物アレルギーの症状悪化にともなって増えるマスト細胞が、脂質prostaglandin D2を産生しており、この物質が代謝されてPGDMとして尿へ排泄されることが明らかになった。このことから尿のPGDM濃度は、マスト細胞の数や活性を反映したものであることが判明したとしている。
さらに、東京大学医学部附属病院で、食物アレルギー・喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎の患者を対象に、尿のPGDM濃度を測定。その結果、食物アレルギー患者での診段結果において、PGDM濃度が高くなっていることが証明されたという。
この技術が実用化された場合、小児から採血する必要なく、食物アレルギーを簡単に診断できるようになる可能性がある。また、症状を客観的な評価が可能となれば、免疫療法や治療薬の開発の指標としても役立つことが期待される、と研究グループは述べている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース