造血幹細胞移植後に発症する重篤な免疫異常症
広島大学は12月18日、動物モデルを用いて、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)が分泌する生体ナノ粒子である「細胞外小胞」(EV)が、造血幹細胞移植後の重篤な免疫異常症である移植片対宿主病(GVHD)を改善する作用を持つことを解明したと発表した。この研究は、同大原爆放射線医科学研究所の一戸辰夫教授らと、京都大学医学部附属病院の三浦康生助教(広島大学原爆放射線医科学研究所客員准教授)、前川平教授、京都大学大学院医学研究科の藤井紀恵研修員・高折晃史教授らによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Stem Cells」オンライン版に掲載されている。
GVHDは造血幹細胞移植後に発症する皮膚や消化管の炎症を特徴とする重篤な免疫異常症。最近まで、副腎皮質ホルモン以外に確立された治療薬は存在しなかった。ヒト骨髄由来MSCは国内外において、造血幹細胞移植後に発症するGVHDの治療に利用されているが、これまでその効果がどのようなメカニズムで発揮されるのかについては、完全に明らかにされていなかったという。
EVに含まれるマイクロRNAが免疫調節作用に関連
大きさ数十~数百nmの生体ナノ粒子であるEVは、その中にさまざまな生理活性物質を含んでいる。今回の研究では、本研究では、ヒト骨髄由来 MSCが細胞培養液中に分泌するEVを分離し、GVHDを発症するモデルマウスに投与することでその治療効果を検討。その結果、EV治療を受けたマウスの生存期間は、治療を受けていないマウスと比べて延長し、大腸組織の破壊と炎症性細胞の浸潤の軽減など GVHDに関連する臓器障害が緩和されることが明らかとなった。
画像はリリースより
さらに、マウス血液中のT細胞を詳細に調べたところ、GVHD発症の促進に関連するナイーブT細胞のエフェクターT細胞への活性化が抑制されている一方で、過剰な免疫反応を抑制する働きを持つ制御性T細胞が減少することなく保たれていることが判明。また、マイクロアレイ法を用いた検討の結果、この免疫調節作用にはEVに含まれるマイクロRNAが関連していることが示唆されたとしている。ヒトT細胞を用いた検討でも、EVは活性化T細胞の増殖を抑制し、制御性T細胞を温存することが確認されたという。
今後について研究グループは、研究成果を通じて、GVHDをはじめとするさまざまな免疫異常症に対して、生体ナノ粒子であるMSC由来EVやその主作用を担うマイクロRNAを利用した新しい治療法の開発に道を開くことが期待される、と述べている。
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