生体機能を制御するマイクロRNAを内包する細胞外小胞体
名古屋大学は12月18日、尿1mLから肺・膵臓・肝臓・膀胱・前立腺がんを特定する技術を開発したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の馬場嘉信教授、安井隆雄助教らと、九州大学先導物質化学研究所の柳田剛教授、国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野の落谷孝広分野長、大阪大学産業科学研究所の川合知二特任教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、米科学雑誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。
尿中に含まれる細胞外小胞体は、生体機能を制御するマイクロRNAを内包していることが知られている。このマイクロRNAは、がん患者と非がん患者で発現しているものが異なっていると考えられている。しかし、尿中の細胞外小胞体は極めて濃度が低いため、尿中の細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAを使った非侵襲かつ簡便な疾病診断・健康診断法の実現は困難だとされていた。
がん患者で特異的に過剰・減少発現するマイクロRNAを発見
研究グループは今回、酸化亜鉛ナノワイヤを用いて尿中の細胞外小胞体を捕捉する新しい技術を構築。ナノワイヤが尿中細胞外小胞体を99%以上捕捉する新しい素材であることを発見したという。また、このナノワイヤで捕捉した尿中細胞外小胞体の内部のマイクロRNAを解析したところ、1,000種類以上のマイクロRNAが尿中に存在していることを明らかにした。
画像はリリースより
これまで、ヒトマイクロRNAは2,000種類以上発見されているのに対し、尿からは200~300種類しか発見されていなかった。これは、マイクロRNAの多くが組織特異的な機能を有しているためと考えられてきたが、同研究結果により、尿中のマイクロRNAの存在量が少ないためだということがわかったとしている。
研究グループはさらに、がん患者ドナーの尿と健常者の尿から回収したマイクロRNAの比較から、がん患者で特異的に過剰・減少発現しているマイクロRNAを発見。泌尿器系のがん患者(前立腺・膀胱)のみでなく、非泌尿器系のがん患者(肺・膵臓・肝臓)においても、がん患者特異的なマイクロRNAを発見することができたという。
同技術の活用により、尿を使った非侵襲がん診断・特定が期待される、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース