有用な研究ツールとして期待されるTS細胞
東北大学は12月15日、ヒト胎盤幹細胞(TS細胞)の樹立に世界で初めて成功したことを発表した。この研究は、同大大学大学院医学系研究科情報遺伝学分野の岡江寛明助教と有馬隆博教授ら、九州大学生体防御医学研究所の佐々木裕之教授、須山幹太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Stem Cell」に掲載された。
画像はリリースより
哺乳類の胎児の発生には、正常な機能を持つ胎盤の形成が必須である。これまで、ヒトのトロフォブラスト(胎盤の主要な構成細胞)に関する研究には、がん由来の細胞株や遺伝子改変によって不死化した細胞株が使用されてきた。しかし、がん細胞株や不死化細胞株は正常なトロフォブラストとは性質が異なり、これらを用いた研究結果をそのまま正常細胞へと適用することはできなかった。
TS細胞はこれらの問題を克服し、ヒト胎盤の発生や機能を研究する上で有用なツールとなると期待されている。しかし、マウスTS細胞の培養法はすでに確立されているものの、マウスと同様の条件でヒトTS細胞は樹立できていなかった。
合胞体/絨毛外トロフォブラストへ分化する能力を保持
今回の研究では、高い増殖能と多分化能を持つヒトの細胞性トロフォブラストの増殖が生体内でどのように制御されているのかを理解するために、ヒト胎盤よりトロフォブラストを高純度に分離。トロフォブラストで機能している遺伝子を網羅的に解析した。その結果、細胞性トロフォブラストの増殖を制御する可能性がある因子を突き止めたという。この情報をもとに培養条件を検討したところ、細胞性トロフォブラストよりヒトTS細胞を樹立することに世界で初めて成功した。
このヒトTS細胞は5か月以上に渡って培養でき、長期培養後も、ホルモン分泌や栄養・ガス交換に働く合胞体トロフォブラストや、子宮内で母体の血管の再構築を行う絨毛外トロフォブラストといった細胞へ分化する能力を保持。さらに、ヒトTS細胞の遺伝子発現とDNAメチル化状態は、生体内のトロフォブラストと極めて類似していることも明らかになったという。
今回の研究成果は、ヒト胎盤の発生・分化の分子機序や胎盤異常に起因する疾患の病態解明・治療法開発に役立つ可能性があり、将来的には生殖医療や再生医療に貢献すると期待される、と研究グループは述べている。
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