これまでは再生医療分野で有用性が認められている材料を使用できず
大阪大学は12月12日、世界で初めて、インクジェット式のバイオ3Dプリンターで、さまざまな細胞を含む厚みのある3次元構造物を造形可能な技術を開発したと発表した。この研究は、同大大学院基礎工学研究科の境慎司教授、田谷正仁教授、富山大学理工学研究部の中村真人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Macromolecular Rapid Communications」に掲載された。
画像はリリースより
インクジェットプリンター方式のバイオ3Dプリンターは、細胞よりわずかに大きな直径0.05mm程の液滴を1滴ずつ積み重ねながら造形していく。精巧な造形が可能であることから、生体の組織や臓器を生体外で再現するための重要な技術として注目されている。
一方で、立体的な構造物のプリントの場合、インクジェットプリンター方式のインクには、細胞に対して穏和にかつ他の方式のプリンターのインクと比較して、極めて早く固まることが求められる。しかし、この特性を満たすインク材料は限定され、ヒアルロン酸・ゼラチン・キトサンなど、再生医療分野でその有用性が広く認められている材料を使うことはできなかったという。
細胞増殖に適したインク使用で、実際に細胞増殖を確認
今回、研究グループは、再生医療分野で有用性が広く認められているさまざまな材料に、西洋わさびに含まれる酵素ペルオキシダーゼを作用させ、瞬時に固まり、ゼリーのようなゲルを形成する性質を付与した複数のインクを開発。そして、細胞を分散させたのインクを、酵素反応で瞬時に固めながら、細胞を含んだゲルを1滴ずつ積み重ねることで、細胞の生存をほとんど損なうことなく、細胞を含んだ立体構造物を造形することに成功したという。また、細胞の増殖に適したインクを使用することで、実際に細胞が伸びて増殖することも確認したとしている。
これにより、広く普及している複数の色のインクカートリッジを備えたインクジェットプリンターと同じように、複数のインクカートリッジに、それぞれ別の細胞とインクを充填して使用することで、組織や臓器のように、血管の周辺に別の細胞があるような複雑な構造物の造形も可能となるという。
今回の研究結果により、iPS細胞やES細胞から分化誘導させた細胞などが、生体の組織や臓器と同じような位置関係で、それぞれの細胞に適した環境に配置された構造体を、インクジェット式のバイオ3Dプリンターで印刷可能となることが期待される、と研究グループは述べている。
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